「スカッとさわやか」な一台。
ひょうきんな顔が印象的なトラック、いすゞエルフだ。いすゞエルフと言えば日本の小型、中型トラックの代表的存在でもある。昭和34年(1959年)に初代が登場。モデルチェンジを続けながら改良され、21世紀の現在でも製造、販売が続けられている。60年以上の歴史を持つ商用車でもある。
コカ・コーラ配送のボトルカー。
上の画像は初代のエルフで、色は鮮やかな黄色。見てわかるようにコカ・コーラの配送トラック、いわゆるボトルカーである。昭和30年代であるのでコーラは当然ビンのボトルである。荷台に積まれた箱の中にコーラボトルが並べてあって、コーラを箱ごと小売店などに届けていた。当時はよく、街角でガチャガチャ音を立てながら走っているのを見かけたものだ。
しかし、コカ・コーラは赤というイメージがあるのに、このエルフは全身黄色で塗られている。なぜ黄色なのだろうか。そんなコカ・コーラボトルカーの疑問についてはあとにまわして、まずはいすゞエルフについて語ってゆこう。
キャブオーバーのディーゼルが人気に。
1930年代〜50年代まで日本の小型貨物自動車と言えば三輪自動車、オート三輪であった。しかし、1950年代の終わり頃になると、道路事情が良くなり、四輪トラックの価格がオート三輪に近づいたこともあって四輪トラックが配送の主役となってきていた。
そんな時代にエルフは登場する。発売当初は1500ccのガソリンエンジンのみであったが、翌年には2000ccのディーゼルエンジン搭載車を投入。人気に火がつく。2000ccの強力エンジン、しかもディーゼルであるため燃料費も安く済むということで、トラック購入を検討している会社や個人が飛びついたのである。
また、エルフはキャブオーバートラックであった。キャブオーバーとは、それまでのボンネット型とは異なり、エンジンをキャビンつまり運転席の下に置いたタイプのトラックである。その分荷台が広く取れ、小型トラックの割には荷物も多く積める。
しかも、エルフは前面がスッキリしており、フロントウインドウが大きく取られている。これは見晴らしがよく、運転しやすいということも意味している。エンジンや積載量もさることながら、こうした運転のしやすさ、居住性なども先発のトラックとは一線を画していたのである。
そして、いすゞエルフは、ディーゼルエンジン車を投入した昭和35年(1960年)にはこのクラスのトラックの販売台数のトップへと躍り出るのである。
ビン類輸送車としてのいすゞエルフ。
初代エルフの昭和37年(1962年)版のカタログには、エルフの架装例つまり改造の例としてビン類輸送車というのが出てくる。これはエルフが、ガラスのビンのような壊れやすいものでも安心して運べるという点を訴えたかったのかもしれない。しかし、いすゞがこの車をビン類を配送する車として使うことを最初から想定していたのは確かである。
では、エルフは実際にコカ・コーラのボトルカーとして使用されていたのだろうか。日本コカ・コーラ株式会社のサイトを見ると、昭和31年(1956年)にコーラの原液の輸入が解禁され、東京に日本で第一号のコーラのビン詰め工場つまりボトラーが誕生したとある。
その工場からコカ・コーラを積んだボトルカーが各地へコーラを配送したのは確かなようだが、いすゞ エルフが使われていたかどうかは確認できなかった。しかし、昭和34年(1959年)に新型トラックとして登場し、販売台数トップとなったエルフであるから、コカ・コーラのボトルカーとしても使われていたことだろう。
黄色のコカ・コーラボトルカーとは?
さて、日本にコカ・コーラのボトルカーが登場したのは昭和30年代だが、世界では戦前からトラックがボトルカーとして使われていた。いすゞエルフと同様、トラックの荷台に箱入りのコカ・コーラを並べて配送するという形である。なお、現在のボトルカーは、中が見えないパネルバンで、段ボール箱に入れた缶入り飲料を運んでいる。
コカ・コーラというとイメージカラーは赤だ。缶入りを運ぶ現代のコカ・コーラボトルカーは多くが赤く塗られている。しかし、ビン詰めのコーラを運ぶ時代のボトルカーには黄色く塗られたものが多い。それは、コーラのビンを詰めた木箱が黄色く塗られていたからだそうだ。単純な理由だが、それによって街では結構目立っている。宣伝効果を考えると、この黄色、赤よりもいいかもしれない。
昭和30年代の日本の街でも、この黄色はとっても目立っていたのではないだろうか。そして、運んでいるのはアメリカ文化の象徴コカ・コーラである。しかも昭和30年代の中盤を過ぎると「スカッとさわやかコカ・コーラ」のテレビCMが盛んに流され、コーラは流行に敏感な若者の飲み物というイメージが定着していった。
ボトルカーとなったいすゞエルフ、この車はレッキとした日本のトラックではあるが、コーラというアメリカの風を運んでくるのだから、当時の若者にはとってもクールな、いや“スカッとさわやか”な車に見えたことだろう。