ルノー コロラール

ルノーコロラール
ルノー コロラールプレーリー 1950年

フランスの田舎道のために生まれた?!

ルノー コロラールは、1950年から製造、販売された中型車。1946年にデビューしヒットした小型車ルノー4CVとフロント周りが似ており、4CVを一回り大きくしたワゴンタイプの車という印象だ。

実際にステーションワゴン、バン、トラックなどのバリエーションがあり、乗用車としても商用車としても使うことができた。しかも、オプションとして四輪駆動が選べた。それは、堅牢でどんな場所でも走ることができる万能車であった。

コロラールの側面
コロラールの側面
ワゴンタイプで、不整地を走りやすい形だ。ドアが観音開きになっているのも時代を感じさせる。
ルノー4CV
ルノー4CV
フロント周りがコロラールと似ている。なお、これは1957年にオーストリアのアッヘン湖畔で撮られたルノー4CVである。
Peter03, Public domain, via Wikimedia Commons】

田舎と植民地がターゲット。

なぜ、こんなワゴンタイプの万能車が作られたのか。それは車の名前が示している。

コロラール(COLORALE)とは、フランス語で植民地を意味するコロニアル(COLONIALE)と田舎を意味するルラール(RURALE)を合わせて短くした造語である。コロラールは、田舎つまり地方や植民地のユーザーを対象にした車なのである。

植民地というのが時代を感じさせる。フランスは現在でも植民地、つまりフランス領を持っているが、この車が登場した1950年には、現代よりも多くのフランス領が存在した。ベトナムやカンボジアの一部を含むインドシナ、アフリカのアルジェリアなどもフランス領だった。

ルノーコロラールは、そんなフランスの地方やフランス領での使用を見込んで作られたのだ。その当時はそうした地域の道路はあまり整備されていなかったのだろう。

ルノー コロラール実車
レストアされたコロラール。後ろのマネキンと比較すると、結構背の高い車である。不整地でもよく走るというのがわかる。
Alf van Beem, CC0, via Wikimedia Commons】

整備されていない道、それは単に未舗装道路だけではない、不整地つまりオフロードを含んでいる。ゆえに、それなりの走破力を持った車でなければ役に立たないということになる。そうなると、有用なのはジープに代表されるような四輪駆動車である。

よく走るのはもちろん、車らしい車がいい!

当時、フランスの地方には第二次大戦中にアメリカ軍が使用したジープをはじめとする車両が多く残されていたらしい。そんな軍隊の置き土産のような車も終戦直後は重宝されていた。

しかし、戦後も5年も過ぎると、「戦争の遺物のような車ではなく、もう少し車らしい車に乗りたい・・・」というニーズも生まれたことだろう。

そうした人々に向けて、ルノーはコロラールを売り出した。四輪駆動車も選べ、荷物も多く積めて便利。デザインはルノー4CVに似てスタイリッシュ。ジープのような野暮ったさは無い。しかも、お値段もお手頃というわけである。

当時のCMや宣伝映像を見ると、この車が商売や仕事、家族でのレジャーなどに役立つことを訴えているのがわかる。また、コロラール四輪駆動車は道なき道を走ることができ、ジープタイプの車に勝るとも劣らない走りを見せているのが興味深い。

コロラールのCM
豚や鶏を乗せるとか、工務店で使うとか、家族でドライブとか、さまざまな使い方が紹介されている。車種もバラエティに富んでいる。また、後部のドアが上下に開くのも面白い。

コロラールは、現代ならSUV。

見た目は普通の車でありながら、ジープのような走破力を示す車と言えばSUVがある。

SUVとは、Sport Utility Vehicleの略で日本語にするとスポーツ用多目的車である。日常生活やレジャーで便利に使えるといった意味を持つ。特にアウトドアレジャーのブームに合わせて登場し、人気を得てきた車種だ。

コロラールは、1950年に早くもこのSUVの考え方を持つ車として登場したと言えるだろう。コロラールにはいくつかのバリエーションがあったが、人気だったのはプレーリーである。6人乗りで荷物を積むスペースも広く取れるファミリーカーだった。これで悪路にも強いのだから、まさに現代のSUVである。

コロラールプレーリーの宣伝映像
舗装道路やダートの田舎道だけでなく、道なき道もOKという走破力を訴えている。

また、サバンというタイプもあった。2ドアで後ろの席の窓にはキャンバスが貼られており、暑いときはそれを巻き上げて風通しを良くするというタイプだった。

サバンとはサバンナの意味で、熱帯地方で使うことを想定した車だった。これもまたアウトドア好きにはたまらない車と言えるだろう。

コロラールサバンの宣伝映像
砂漠を走る姿を紹介。前の窓ガラスが跳ね上げ式で、側面の窓には巻き上げたキャンバスがあるのがわかる。

SUVでもこの車は売れなかった。なぜ?

ところが、この車は思うようには売れなかった。車に対する意識が現代とは違っていたからである。車といえば、スマートで、エレガントで、スピードが早く、というのが当時の人々の車に対するイメージであった。

しかし、コロラールは不整地ではよく走るとしても、普通の道路ではやはりパワー不足が目立ってしまった。前から見れば都会で走っている4CVに似てはいても、ボディはワゴンタイプであり田舎臭さが抜けない。

いくら頑丈で、不整地を力強く走ったとしても、商売や仕事で使うならばよいが、家の車として購入するのはどうかということになったのだろう。

この時代、家族を乗せてドライブといっても、せいぜいピクニック程度だったろう。キャンプとかアウトドアなんて意識はない。そもそも仕事でもないのに車で山や森に行こうなど思わなかったのではないだろうか。

テントを積んで山奥へ分け入り、自然を満喫するといったアウトドアレジャーが普通になった現代だからこそSUVは人気を得たのである。

消防車両のコロラール
消防車両として使われたコロラール
フランス東部の街コルマールで見られたものである。やはりこの車は、こうした仕事での使用が主だったのだろう。消防士のオープンハウスでのルノーコロラールとの解説があり、現役で使われている車かどうかは不明である。
Gzen92, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】

では、この車は現代では受け入れられるのだろうか。現代のSUVは街乗りが基本であるからやはり難しいかもしれない。しかし、現代のSUVブームの萌芽とも言える1980年代のクロスカントリー車ブームの時代ならどうか。

それは、高い走破性能を持ちながら高速での安定性や居住性を高めた四輪駆動車がブームとなった時代である。

スズキがジムニーのデザインを一新し、三菱がパジェロをデビューさせ、トヨタランドクルーザーの60系や70系が人気となった頃だ。その時代なら、コロラールも人々に受け入れられたのではないだろうか。

それを考えると、この車、ルノーコロラールの登場は30年ほど早すぎたと言えるだろう。