フィアット 500C ベルベデーレ

フィアット500C ベルベデーレ
フィアット 500C ベルベデーレ 1951年

時代の先ゆく、家族向けワゴン。

いかにもヨーロッパ車というデザインのかわいい車、イタリアの自動車メーカーフィアットの小型車 500Cである。大きさは日本の軽自動車、それも360cc時代の軽のサイズに近い。小さいながらも、後部にも座席がある4人乗りで、荷室が分けられていないワゴンタイプの車でもある。

しかもキャンバストップで屋根がオープンとなる。ベルベデーレという名前が付いているが、その名前には「眺めが良い」とか「展望室」という意味がある。確かに屋根を開けてドライブすれば、開放感があっていい眺めを楽しめるだろう。

500C ベルベデーレのスタイル
500C ベルベデーレのスタイル
かわいい顔をしたワゴン車である。しかも、屋根はキャンバスで、後席までいっぱいに開く。屋根を開いて走れば爽快だったろう。

トポリーノと呼ばれた初代500。

フィアット500と言えばよく取り上げられるのが丸くて小さなあの車、アニメのルパン三世にも登場する車だ。それは、チンクェチェントという愛称でも知られ、1957年に登場した2代目のフィアット500である。2代目ではあるが、初代500とは全く異なり、新規に設計開発された車でもある。

今回取り上げるのはその2代目ではなく、初代のフィアット500である。開発されたのは戦前で、1936年だ。最初は2人乗りの小型車であり、デザインも1930年代流行の流線型スタイルを取り入れている。愛称はトポリーノ。ハツカネズミという意味があるが、確かに見た目はネズミである。小さな車体で街をチョロチョロ走り回る姿はネズミを連想させる。

しかもこの愛称は、ウォルト・ディズニーの“ミッキーマウス”から来ているらしい。イタリアでは確かにミッキーのことをトポリーノと言う。ミッキーマウスは1928年デビューであり、フィアット500が登場した1930年代中盤にはイタリアでも大人気だったようだ。

初代フィアット500
初代フィアット500
縦長のフロントグリルにライトが2つのかわいいヤツ。トポリーノの愛称の通り、確かにミッキーマウスのイメージである。
Supermac1961 from CHAFFORD HUNDRED, England, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】
フィアット500と子どもたちの写真
子どもたちとトポリーノ
1946年にイタリアのナポリで撮られた写真。子どもたちは、このかわいい車が大好きなのである。トポリーノの小ささもよくわかる写真だ。
Federico Patellani, Public domain, via Wikimedia Commons】

形は小さいもののフィアット500には当時の新しい技術が多く取り入れられていた。車体の流線型もその一つだが、排気量570ccの水冷エンジンに油圧ブレーキ、前輪の独立懸架など上のクラスの乗用車に匹敵するスペックを持っていたのである。それでいて、価格設定も普通の乗用車より安くなっていたため、フィアット500は大ヒットした。

戦前に登場しヒットしたこの車の人気は戦後になっても衰えず、500AからB、Cとマイナーチェンジされ、結局1955年まで製造が続けられた。まさにこの当時のイタリアの国民車ともなったのである。1953年公開の映画「ローマの休日」では、当時のローマ市街の状況が出てくるが、フィアット500が街中を走り回っているのを見ることができる。

ローマの休日のフィアット500
映画「ローマの休日」の一部を抜粋した動画。オードリー・ヘプバーン演じる王女のスクープを狙うカメラマンが、スクーターのベスパで走る王女を追いかける場面が入っている。カメラマンの乗る車がフィアット500である。その車以外にもたくさんのフィアット500がローマの街を走り回っているのがわかる。

ファミリーカーとしての需要に応えた。

さて、今回取り上げるフィアット500Cについて少し詳しく見てゆこう。トポリーノという愛称で親しまれたデザインの車は500Aと500Bだが、500Cではボンネット周りが大幅にデザイン変更され、ヘッドライトがフェンダーに埋め込まれた戦後型のスタイルとなる。でも、それでもどこかネズミというイメージが抜けないのだから、この車は面白い。

フィアット500C
フィアット500C実車
トポリーノと呼ばれた500Aや500Bから一転。フロントまわりのデザインを戦後型に変えた500C。今の人間から見れば前のデザインの方が魅力的なのだが、当時の人には古臭いデザインだったのだ。しかし、新たなデザインになってもどこかネズミらしさは残っている。
Andrew Bone from Weymouth, England, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】

フィアット500は、もともと街乗りに使えるツーシーターとして登場した。しかし、その手軽さから家族や仲間とのドライブに使われるようになっていった。事実2人乗りのフィアット500に3人4人と乗り込むという使い方もされていたようだ。

そこで、フィアットの方から、車体の長さを少し伸ばし、荷物室と居住空間を一体化した4人乗りワゴンを発売。そうした需要に応えたのである。そして、小さな車体に4人も乗るとなると閉塞感があるので、屋根はキャンバスとし手軽にオープン走行できるようにしたのだ。

ワゴンタイプの500Cが登場したのは1951年であるが、すでにその前の500Bの時代にも同様のタイプが出ているので、1940年代にはワゴンが存在したことになる。そう考えると、この頃のフィアットは新しい挑戦をしていたことになる。

イベントで見られたフィアット500Cベルベデーレ
500Cベルベデーレ実車
車体を後ろに伸ばし、荷物室と居住空間を一体化している。2011年の旧車のイベントで撮られた写真だ。手前にはトポリーノも写っている。
Joost J. Bakker, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】
ベルベデーレの後部座席
ベルベデーレの後部座席
結構狭く見えるが、二人座るのは可能である。背もたれを倒せば荷物室を広く使えるのは今の車と同じだ。
Ligabo at Italian Wikipedia, Public domain, via Wikimedia Commons】

ライフスタイルと車の関係を考えると。

子どもを持つ家族が、軽のトールワゴンやSUVなどワゴンタイプの車を持つという形は、現在の日本ではよくあるライフスタイルだ。それも、ここ30年ぐらいでこうしたスタイルが定着してきたと言えるだろう。でも、フィアットでは今から70年以上前に、家族で使うことのできるワゴンを発売しているのである。

実際にこれまでヨーロッパ車でもアメリカ車でもワゴンタイプがラインアップに加えられ、ユーザーの支持を得てきた。欧米では夏に長期休暇を取り、家族でバカンスに出かける習慣があるため重宝されたのである。家族みんなが乗り込み、荷物もたくさん積んで遠出するには、やはりセダンやクーペではなくワゴンでなければならないというわけだ。

しかし、欧米でもそんなライフスタイルが一般に定着したのは、1960年代以降であろう。さらに日本になると、それよりも遅れており、さきほども触れたように30年ぐらい前、1990年代あたりからというところだろうか。

しかし、フィアット500の例に見られるように、イタリアでは、戦争が終わって数年後にはこうしたタイプの車が出てきていたわけだ。しかもイタリアは敗戦国で、経済や生活の立て直しも大変だったと思うのだが・・・。

それを考えると、イタリアの人たちは遊ぶことが大好きというか、楽しむことに積極的なのだと改めて感服せざるを得ないのである。

フィアット500C紹介動画
美しくレストアされた500Cベルベデーレを紹介する動画である。エクステリアをはじめエンジンや運転席周り、後部の座席、荷室などを詳しく見ることができる。いろいろな工夫が施されている車であることがわかって面白い。
フィアット500C走行動画
木製パネルの付いた500Cの走る様子を撮影した動画である。田舎の山道を走り続けるのだが、エンジン音やギヤチェンジの音など、「ああ〜昔の車はみんなこんな音がしていたなあ」と妙に懐かしさが込み上げてくる。