あなたはなぜロメオなの。
フロントに鎮座する個性的な盾形グリル。車好きなら、「おっ!アルファロメオ」と叫んでしまう。落ち着いたスタイルが印象的なイタリア車、アルファロメオ ジュリエッタである。
この車ジュリエッタは、1954年から1965年まで10年間製造、販売されていた。上の写真は、1955年に登場したジュリエッタ ベルリーナ、4ドアセダンである。
大衆向けの高性能車といえば・・・。
アルファロメオは、イタリアの自動車メーカー。第二次世界大戦前から高級で高性能な車を製造、販売するメーカーとして名を馳せた。創業は1910年だが、創業時から自動車レースにも積極的に参戦し活躍した。
そして1930年代には、一般向けの車にもレーシングカー向けのエンジンを搭載するなど、高性能車といえばアルファロメオというイメージを築き上げていた。
しかし戦後になると、アルファロメオは、高級で高性能な車の少量生産から、大衆向けの車を大量生産するメーカーへと変わってゆく。その第一弾が1950年登場の中型車アルファロメオ1900である。
大量生産車でありながら、当時はまだレーシングカーに使われることの多かったDOHCエンジンを搭載するなど、それまでのアルファロメオの伝統に沿ったコンセプトで登場した。「レースに勝つファミリーカー」という発売当初のキャッチフレーズがそれを物語っている。
アルファロメオ1900に続き、1954年に登場した大量生産車の第二弾が、アルファロメオ ジュリエッタである。
ジュリエッタは、1900よりコンパクトな小型車だが、アルミ合金製のDOHCエンジンと軽快な足回りでスポーティな走りが楽しめた。手頃な値段でスポーツドライビングが楽しめる車、そして何よりもあのアルファロメオであるということで、多くのユーザーに支持されヒットすることとなる。
最初のラインナップはクーペだけだった。
この車、発売当初はスプリントと呼ばれる2ドアクーペだけであった。普通は新しい車種の登場の場合、セダンから投入され、クーペ、ワゴンといったようにバリエーションが増えてゆくものなのだが、ジュリエッタはクーペが最初で、その翌年、セダンタイプのベルリーナとオープンタイプのスパイダーが追加されている。
なぜ最初がクーペだったのか。それについては面白い話がある。
この車の開発に際し、解決できない一つの問題があった。それは車内の防音性が不十分であるということだった。車のパワーや操縦性、安定性は素晴らしかったものの、走行時の車内の騒音が、競合他社の車と比べて高かったのである。
そこで車の開発陣は、スポーティな車ならば多少の騒音があってもユーザーには許容されるだろうということで、まずクーペタイプを発売することを提案した。その後防音性の問題を解決すればよいと考えたのである。
経営側はその提案を最初は拒否するものの、結局受け入れることになる。それで、2ドアクーペが最初に発売されることになったのである。
ファンの話題をさらったジュリエッタ。
やはりこの時期、防音性の問題を後回しにするとしても、とにかく新型車を発売することが先決だったのであろう。
1950年代中盤から60年代中盤にかけて、イタリアは「奇跡の経済」と呼ばれる経済発展の時代であった。戦後の混乱期を抜けて人々の消費意欲は大いに高まっていた。ここでアルファロメオは買いやすく、しかも自社の伝統を感じさせる新型車をどうしても投入したかったのである。
アルファロメオ ジュリエッタは、1954年のトリノモーターショーで発表されるやいなや人々の注目を集めることとなった。
手頃な価格で、あのアルファロメオ=高性能車が手に入るということは、車大好き人間にとって大きな魅力だったのである。今もイタリアで人気の自動車雑誌QUATTRORUOTEの創刊号の表紙を飾ったのもこのジュリエッタであった。
「ジュリエッタ」の由来とは。
さて、この車は「ジュリエッタ」と女性名の愛称が付けられている。女性名の車は結構あるが、この名前はどこからきているのだろうか。
シェークスピアの「ロミオとジュリエット」からきているらしい。アルファ“ロメオ”だから“ジュリエッタ”だというオヤジギャグ的センスのネーミングではあるが、調べるとちゃんと理屈に合っているので面白い。
「ロミオとジュリエット」はシェークスピアの戯曲だが、この作品の舞台となっているのはイギリスではなくイタリアである。ゆえに英語ではなくイタリア語で読めば「ロメオとジュリエッタ」である。
しかも、この悲劇の主人公たちが住むのはイタリアのヴェローナとされており、アルファロメオが創業したミラノと同じイタリア北部にある都市だ。ヴェローナには実際にジュリエットのバルコニーがあるそうで、貴重な観光資源にもなっている。
それを考えるとこの名前は、世界的に有名なロマンスにあやかったロマンチックなネーミングであり、また実に郷土愛や地元愛にも溢れているということにもなる。
ネーミングにアルファロメオの思いが・・・。
いずれにしても、高い技術力が生かされた一般向けの車にこうした愛称をつけるということはアルファロメオとしては新たな試みであったと言えるだろう。それまでは、他のメーカー同様エンジンの形式や排気量を表した単純なネーミングが多かったからだ。
事実、戦後第一弾の車の名前は1900であり、エンジンの排気量を表す数字だった。ジュリエッタはまさに企業としてこれからさらに大量生産車を送り出そうというアルファロメオの決意表明のようなネーミングだったのだろう。
さて、ジュリエッタがあるならロメオは無いのかという話になるが、実は存在する。ジュリエッタと同じ1954年に登場した商用車アルファロメオ ロメオがそうである。
なぜ商用車がロメオなのか。よくわからないが、両方所有すれば「ロメオとジュリエッタになるぞ」ということなのか。これこそまさにオヤジギャグである。