車は、ファッションアイテム。
ルノー4(キャトル)は、1961年に登場したルノーの前輪駆動車。ハッチバイクスタイルの実用性が受けて、1992年まで製造されていた人気車である。最初は、当時実用的な車で人気だったシトロエン2CVの対抗馬として売り出された。
都会的なルノー4を、女性向けに。
シトロエン2CVはもともと農家で使える車として作られただけに素朴さが売り物であった。それに対して都会的というのがルノー4の売りであった。
そんなルノー4の中で特筆すべきなのが、このルノー4パリジェンヌである。なんと言っても“パリジェンヌ”なのだから、これ以上都会的なものはないだろう。
このネーミングの通り、都会で女性に乗ってもらおうというのがルノーの戦略であった。
それまでの車でも女性に訴求を行うことはあった。だがそれは、“女性でも簡単に運転できる車”という訴えであった。60年代のトヨタパブリカのCMに「ママがパパに代わって運転することがあります。」なんてメッセージがあったのを思い出す。
だが、ルノー4パリジェンヌは、あくまで女性が乗る車として、都会的なパリジェンヌが運転する車としての訴求を行ったのである。
女性誌とのキャンペーンが始まりだった。
1963年、女性誌のELLEとの共同企画で「彼女はハンドルを握る」というキャンペーンが行われた。これはルノー4を48時間貸し出すというもので、まずはハンドルを握ってもらおうというわけである。
ELLEといえば今でも世界中で発行されている女性誌、しかもファッションを中心に女性の生き方を提案する雑誌だ。そんなELLEとコラボしたのであるから、ルノーの意気込みがわかる。車は男たちを喜ばせるアイテムではなく、女性をターゲットとしなければならないと考えたのだ。
このキャンペーンに成功したルノーは同じ年の9月にルノー4パリジェンヌを発売する。
カワイイ車ではなく、ファッションアイテム。
通常のルノー4をベースにしているのだが、この車のコンセプトはまさにファッションであった。ボディカラーは黒や濃いワイン色、そこに籐カゴ模様やチェック柄が入る。
現代でも女性仕様と銘打った車は多いが、そのイメージはというとパステルカラーが多い。それは、女性に喜ばれるのはカワイイ車という鉄則があるからだ。女性の方も「この車カワイイ〜」が選択の条件であるので致し方ないが。
ところがルノー4パリジェンヌは違う。大人の女のイメージなのである。この当時の人々の女性の魅力の捉え方が現代とは異なっているからなのだろう。
「どこへでも乗って行ける旅行カバンのような車」がルノー4登場時のキャッチフレーズであったが、パリジェンヌは、それをそのままデザインしてしまった。しかも、雑誌ELLEとコラボすることにより、ファッションアイテムとしてしまったのである。今見てもこの車のオシャレ感は薄れていない。
ウーマンリブの直前に生まれたパリジェンヌ。
ルノー4パリジェンヌは、少しずつ仕様に変更が加えられながら1968年まで販売され続けた。
1960年代終盤から70年代にかけて、アメリカで始まったウーマンリブは、フランスでは女性解放運動(MIF)として当時の世の中を騒がせたが、その女性解放運動の直前にこの車パリジェンヌが生まれたというのは興味深い話である。
男性の玩具であった車の世界に、女性のファッションアイテムとしての車を持ち込んだのだから、まさに女性解放運動の走りと言えるだろう。
家庭にあって夫を支え、子供を育てる妻また母から、自分の人生を謳歌する女性へ。そのための道具であり、ファッションアイテムであるのがルノー4パリジェンヌだったのだ。