四輪駆動の使い方を変えた車。
現代のSUV流行の先駆けとなった軽の四輪駆動車である。ジムニーとは、jeepとminiとtinyの造語だそうで、小さなジープということになる。しかし、今でも納車待ちという人気の高さは、この車が小型のジープ以上の魅力を持っているからに他ならない。
レジャー用の四輪駆動車として登場。
ジムニーの原型は、昭和30年代の軽自動車メーカー、ホープ自動車が製造した軽四輪駆動車「ホープスターON型」である。昭和43年(1968年)、ユニークな軽自動車の開発を模索していたスズキ自動車が、ホープ自動車から製造権を譲り受けスズキ自動車の技術、ノウハウをプラスしてジムニーを作り上げた。
最初のジムニーであるLJ10型が登場したのは昭和45年(1970年)。不整地を力強く走り、仕事に役立つ車として、そして雪の多い地域で役立つ車として発売された。しかしスズキ自動車は、発売にあたって特別なコンセプトも設定していた。”オフロードを走って遊ぶための車”というコンセプトである。レジャー用を訴求したのである。
発売当初のCMにもそれが現れている。そこには、カウボーイハットを被った若者が、ジムニーでオフロードを疾駆する姿が描かれていた。
四輪駆動車自体は、昔から存在した。建設業、林業、農業などに需要があり、軍用としても使われ、雪の多い地域では冬の移動手段となった。しかしその当時、アメリカでは軍用や仕事用の四輪駆動車を走らせて楽しむというレジャーが既に定着していた。そのライフスタイルをスズキ自動車は売り込もうとしたのである。
進駐軍のジープに憧れた少年たちの心をつかんだ。
レジャーとしての四輪駆動車というコンセプトを打ち出したジムニーだが、四輪駆動で遊ぶということに関しては、日本ならではの事情も考慮しなければならない。
ジムニーが発売された1970年代初頭、車購入のメインターゲットは、終戦直後に子供だった世代。子供の頃に彼らが憧れたもののひとつに進駐軍のジープがあった。神社の階段を登ったとか、川を渡ったといった目撃談を聞いて、いつか自分も運転したいと思っていた世代でもある。
そんな当時の少年たちも大人になり、自分の趣味で車を買える年代となった。当然ジープを手に入れたいところなのだが、予算の関係でそうもいかない。家族の反対もある。そこにジムニーが登場した。しかし四輪駆動といっても軽自動車である。馬力があるのか、ちゃんと走るのかと、元少年たちも最初は躊躇した。
ところがジムニーは、本物だった。とても走破できないと思える場所でも難なく乗り越えてしまう。大型の四輪駆動車がスタックしてしまう道でも、コンパクトなジムニーなら大丈夫だった。これは買うしか無い。あの丘のてっぺんまで山道を登ろうとか、幌を畳んでフルオープンで走ろうとか、ワクワクしながら購入したのである。
ジムニーのヒットから生まれた、アウトドアレジャーの流行。
ジムニーは、もちろん普通の乗用車のように売れたわけではない。だが、現在まで続くヒット商品となった。そしてジムニー以降、特に最初の発売から10年後の新型ジムニーのヒット以降、四輪駆動車は仕事用からアウトドアレジャー用が中心になっていった。
三菱パジェロやいすゞビッグホーンが登場し、トヨタのランドクルーザーやハイラックスがレジャー用としてヒットしていったのである。そしてこの流れは、現在のSUV流行に繋がってゆく。
車に乗るというレジャーは、それ以前からあったのだが、四輪駆動車でオフロードを走ろう、アウトドアで使おう、というレジャーを日本に定着させたのが、このジムニーといえるだろう。