トライアンフ TR3A

トライアンフTR3A
トライアンフ TR3A 1957年

風になれ!走りを楽しむロードスター。

前後のフェンダーの流れるライン。丸みを効かせた優しいスタイル。飛び出たライトと大きめのフロントグリルがチャームポイントだ。イギリスの自動車メーカー、トライアンフのTR3Aである。いかにもイギリスの古き良きスポーツカーという車でもある。

古き良きとは書いたが、この車、戦後の車である。製造されたのは1957年だ。第二次世界大戦後の復興もようやく一段落という時代に生まれたスポーツカーであり、幌を外してオープンで走りたい車だ。ちなみにオープンで走ることを前提に設計された車をロードスターと言うが、この車の名前のTRとは、トライアンフ・ロードスターの略でもある。

トライアンフTR3Aのスタイル
トライアンフTR3Aのスタイル
コンパクトな車体に、ルーフは幌。基本的にオープンで走ることを前提に作られたロードスターである。フロントグリルとライトの絶妙なデザインで、とぼけたような表情の車となっている。それがまたいい。

トライアンフとは、どんなメーカーか。

さて、イギリスの自動車メーカートライアンフであるが、1885年創業であるからかなり古い会社だ。自転車の輸入、販売から始まり、製造を行うようになり、1910年代の終わりにはオートバイメーカーとして名を挙げる。そして、二輪車の製造、販売から四輪車つまり自動車の製造へと手を伸ばし、1930年に名をトライアンフ・モーター・カンパニーとするのである。

自動車メーカーとしては後発だったトライアンフは、大メーカーに対抗するため高級車の製造、販売に力を注ぐことになる。30年代にトライアンフが送り出した車にトライアンフ ドロマイトがある。当時流行の流線型デザインを反映したウォーターフォールと呼ばれるラジエターグリルが特徴で評判となり、多くのモデルが製造された。

トライアンフ自転車の絵画広告
トライアンフ自転車の広告
1893年に出された「ビーナスの勝利(トライアンフ)」と題したポスター。しとやかな女性でも颯爽と乗りこなせるトライアンフの自転車を訴えている。
Moore, G. (18..-19.), CC0, via Wikimedia Commons】
トライアンフ ドロマイト
トライアンフ ドロマイト
1940年製のトライアンフ ドロマイトロードスター。戦前はこんなスマートで個性的な車を作っていた。フロントの曲線を活かしたラジエターグリルがウォーターフォールと呼ばれ人気となった。
DeFacto, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】

しかし、二輪車では成功したトライアンフも四輪車の製造、販売は結局うまくゆかず、9年後に破産することになる。しかも、第二次世界大戦が勃発し、自動車の生産はストップすることになるのである。

コンパクトなロードスターを目指したTRシリーズ。

戦後、トライアンフはイギリスの老舗の自動車メーカーであるスタンダード・モーター・カンパニーに買収され、トライアンフという名前はスタンダード社のスポーツカーの名として残ることとなる。こんな状況の中で、1953年、スポーツカー・トライアンフのTRシリーズが生まれることになるのだ。

戦後すぐに、スタンダード社はトライアンフ ロードスターという車を製造、販売した。イギリスのスポーツカーとして名高いジャガーに対抗できる車として出したものだったが、そのデザインは好評を得なかったようだ。戦前のジャガーを思わせるデザインだったものの、その車はスタンダード社に買収される前にトライアンフが製造、販売していたスポーツカーと比べると古臭いイメージだったのである。

トライアンフ ロードスター
トライアンフ ロードスター
1948年型のトライアンフ ロードスター。見事なまでに強調された前のフェンダーと大きめのライトが特徴的だ。しかし、このデザインは時代錯誤と評され、まるでクリスマスの七面鳥だと言われた。
Ricardo Diaz, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】

そこで、スタンダード社は新たに戦後のトライアンフ車の指標ともなるようなコンパクトなロードスターを製造することとした。それがTRシリーズである。イギリスのスポーツカーとして名高いジャガーと当時人気を得ていた小型スポーツカーMGとの間のマーケットを狙って開発したプロトタイプのTR1を、まず1952年に発表した。

TR1、TR2、TR3そしてTR3A。

TR1は、少しクラシカルなイメージを残しながらオープンカーとしての新たなデザインに挑戦するといったスタイルが話題となった。そこで、翌1953年にはTR2を開発。一般向けに発売したのである。

強調された前後のフェンダー、ライトとグリルが描く顔が個性的。コンパクトで軽量ながら最高時速は170キロという高性能。しかも価格は、戦後初のジャガーのヒット車XK120の半分ほどというのだからスポーツカーファンが放っておくわけはなく、大好評となる。しかも、多くの自動車レースでも良い成績を収めることで、「トライアンフここにあり!」ということになるのである。

そのTR2の後継として1955年にTR3が登場する。外観的にはTR2とあまり変わらず、格子状のラジエターグリルが目立つデザインで、かわいいヤツというイメージになっている。

トライアンフ TR2
トライアンフTR2
飛び出た2つのライトに奥に引っ込んだグリル。この顔は、まさに漫画のキャラクターを思わせる。
Charles01, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】
トライアンフ TR3
トライアンフTR3
スタイルは基本的にTR2と同じだが、引っ込んだグリルではなく、格子状のグリルとなっている。
SG2012, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】

そして、TR3に改良を加えて登場したのが、このページで取り上げているトライアンフTR3Aである。ラジエターグリルが横に広がり、ライトの間隔も少し広くなった。TR3よりも洗練されたデザインだが、曲線を生かしたクラシカルなムード漂うボディデザインは変わらない。さすがにイギリスのスポーツカーという感じである。

TR3Aは、やはりロードスターだった。

TR3Aの改良点として面白いところがある。それは、ドアに外部ハンドルが付いたという点である。それまでドアの外にはハンドルが無かったのである。

確かにTR2やTR3の写真を見ると外側にハンドルらしきものは無い。基本的にオープンカーなので、ドアを外から開けるのは簡単であり、しかもドア自体が小さく、開けずにまたいで乗り込むこともできる。

でも、こんなところがトライアンフらしさでもあった。ロードスターであり走りを楽しむ車なのであるから、余計なものはいらないということなのだろう。

TR3Aで外部ハンドルが付くことにはなるが、ロードスターであるという精神は変わらない。相変わらず外部ドアは小さく、この軽量で小さな二人乗りに2000ccのエンジンを積んでいるのだから、走り屋さんにとってはたまらない一台であった。

街角に停まるトライアンフ TR3A
トライアンフTR3A
ハンドルの付いたドアはあるが、開けなくても跨いで入れそうな小ささだ。またそれが、この車のスタイルなのでもある。なおこの写真、フランスのナンシーで撮られたものである。やはりトライアンフは、ヨーロッパの街並みにしっくりと合う。
Alexandre Prévot from Nancy, France, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons】

走る楽しみを忘れないトライアンフ。

トライアンフはもともと二輪車の製造、販売で名を挙げてきたメーカーだ。やはり小型のスポーツカー、それもロードスターは、二輪車の延長線上にある車なのである。風を感じながら、いや、自らが風になるという走りを楽しめる車なのである。

二輪車の製造から、四輪の乗用車の製造を行うようになったメーカーは多い。しかし、トライアンフは、二輪車の野性味と言うか乗馬にも通じる爽快感をユーザーに与え続けてきたのである。TRシリーズは、他のメーカーに買収された後に開発し、製造を始めた車だが、そんなトライアンフの集大成とも言える。

TRシリーズはこの後TR4からTR8までモデルチェンジを行い1981年まで販売され続ける。そしてモデルチェンジのたびに性能は上がっていった。・・・とは言うものの、イギリスの小型スポーツカーとして二輪に近い走りを楽しめたのは、やはりTR3Aまでだったのではないだろうか。

トライアンフTR3Aの動画
レストアされた1960年製TR3Aの外観から内装、エンジン、走りなどを余す所なく見せてくれる。風を感じながら田舎道を走りぬけるというイメージがよく伝わってくる動画でもある。