De Dion-Bouton tractor

レースで力を見せつけた、蒸気自動車。
大きなエンジンにベンチシート。トラクターと言うからには、何かを牽引する車なのだろう。確かに力のありそうな車である。しかもこの車、ガソリンエンジンではない。蒸気エンジン、つまり蒸気自動車なのだ。登場したのは19世紀の終わり、1893年である。
そしてメーカーは、ド・ディオン・ブートン。フランスのメーカーで、自動車や鉄道車両を作っていた。鉄道車両も作っていたのであるから、この蒸気トラクターは、鉄道でいえば蒸気機関車つまりSLなのだ。たくさんの客車や貨物を引っ張った蒸気機関車のように強力な牽引蒸気自動車なのである。
蒸気自動車とド・ディオン・ブートン。
さて、蒸気自動車であるが、その歴史は古い。実用的な蒸気自動車は、1769年にフランス軍が大砲を運ぶために使ったキュニョーの砲車が始まりとされている。キュニョーの砲車は、時速4キロで約5トンの大砲を運んだようで、自動車という輸送機械そのものの始まりともされている。
キュニョーの砲車は戦争で使われたわけだが、人々の暮らしや仕事で蒸気自動車が実用化されたのは19世紀に入ってからだ。イギリスやフランスで盛んに研究が進められ、馬車に代わる車として話題となるのである。
ド・ディオン・ブートンも、蒸気機関の研究、開発を行っていたフランスの会社の一つで、創業は1883年。このメーカーは、1884年に4人乗りの蒸気自動車ラ・マルキーズを製造している。なお、ラ・マルキーズは、走行できる状態で保存されている世界最古の自動車でもある。

前にある大きな釜で湯を沸かし、その蒸気を動力として利用したのだろう。この車は1770年に製造された2号車である。パリ工芸美術館所蔵。
【Musée des Arts et Métiers, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

ド・ディオン・ブートンが製造した4人乗り蒸気自動車。最高時速61kmを出したそうだが、蒸気が湧くまで30~40分かかったともある。
【See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons】
さらに1887年、ド・ディオン・ブートンは、蒸気エンジンで時速60キロ走行という記録を達成する。この成功を受けて、蒸気エンジンの三輪車を製造、販売。当時の若い男性たちに人気の車となった。新しい乗り物である蒸気自動車を運転したがったプレイボーイが、多かったらしい。車で女性にモテようという心理は、今も昔も変わらないのである。
