犬千代、信長に逆らう。

前田利家 二十二歳

凛々しい顔立ちで身長は六尺余り。派手な衣装に身を包み、先が地にまで届く長い刀をさしている・・・犬千代と呼ばれた、前田利家の若き日の姿である。

利家は、十四歳から尾張の織田信長に仕えていた。信長もこの男が気にいったのだろう。何かと目をかけていた。ところが、この主従の関係に亀裂の走るある事件が起こった。信長の小姓が利家の刀の笄(こうがい)を盗んだのである。

「殿、恐れながら小姓の成敗をお許しいただきとう存じます」
利家は、信長に申し入れた。

しかし、信長はとりあわなかった。ところが、小姓がそれを陰で笑い物にしているのを知った利家は、もう我慢がならなかった。信長に仕えているその小姓に近づき、それを斬って捨てたのである。

「それがしにも、どうしても我慢のならないものがある。それを、殿にお知らせせねばならぬ」

利家の、決然たる意思表示であった。この事件により利家は織田家を追われる。利家、二十二歳の試練であった。

前田利家(1538~1599)
尾張に生まれる。通称犬千代。織田家に仕え、信長亡き後、賤ヶ嶽合戦で柴田勝家方から秀吉へ内応。加賀尾山城主となり、加賀百万石の礎を築く。