小谷城落城、三人の娘を連れ尾張へ。

お市の方 二十六歳

天正元年(1573年)、織田信長の手によって、近江小谷城は落城した。信長の妹お市の方、二十六歳。この年で彼女は、未亡人となってしまうのである。

美しい娘お市は、十七歳の時、近江小谷の城主浅井長政と結婚した。政略結婚であった。兄信長は、浅井長政と手を握るため血縁関係を結んだのである。

しかしふたりの仲は、睦まじいものであったと言う。ところがこの幸せもつかの間、長政が信長に対抗したため、小谷城は信長軍に囲まれる。

「もはや、なすすべはありませぬ。わたくしは、あなたにどこまでもついてまいります」
お市は、すでに死の覚悟をしていた。しかし、夫長政は、それを許さなかった。

「いや、おまえは信長殿のところへもどるのだ。幼い子供たちを連れて、速く!」
お市は、愛する夫をあとに残し、三人の娘とともに涙ながらに尾張へと帰るのであった。

その後お市は、信長のすすめられるままに、茶々、初、於江の三人の娘をつれて、柴田勝家と再婚する。

しかし、勝家もまた秀吉に攻められる。お市は、今度は、生き残る道を選ばなかった。子を残し、勝家とともに滅びてゆくのである。

お市の方(1547~1583)
信長の妹。十七歳で浅井長政と結婚するが、浅井家は滅亡。柴田勝家と再婚し、再び落城するという、数奇な運命をたどる。秀吉の側室淀殿の母にあたる。