維新の密謀を助けた情熱の女性。

津崎矩子 七十三歳

安政五年から六年にかけて伊井直弼が行った反幕運動への政治的弾圧事件、安政の大獄。そこで処刑された勤王の志士や学者、町人たちは百人にものぼり、人々を恐怖の淵におとしいれた。討幕派の志士たちが奔走し、新選組が京を闊歩した時代である。

「津崎矩子。その方、取り調べをおこなう。同行されよ」
安政六年(1859年)津崎矩子、七十三歳。彼女もやはり、討幕派の片棒をかついだ罪人として、幕吏に捕えられた。当時としては、かなりの老齢である。

「知っていることは、答えもしましょうけれど、言わじ答えじと思ったことは、たとえ、骨をもがれ身をけずられようとも、言いはしません」

白髪のこの老女は、白州に引き出され、幕府の役人に、手を替え品を替え尋問されてもきっぱりと言い切った。その気丈な態度に、幕吏たちも驚いたという。

鋭い先見性と高い理想を持って信念を貫いた女性勤王家。維新は、彼女の手によっても行われたのである。

津崎矩子(1786~1873)
近衛家に仕え、村岡局と呼ばれる。幕末、成就院僧月照、西郷隆盛らと交友を持ち、明治維新の密謀を助けた。