雪舟 六十六歳
「明国で、わしは画法をずいぶん学んだが、画の神髄は、ついに得られなかった」
雪舟が、明国に画を学び、日本に帰ってきてから、すでに十七年の歳月が流れていた。この間、自分は何を成していただろうか。それが、常に雪舟の自問するところであった。
「明国で学んだ画を、わしはただここで繰り返しているに過ぎぬのか・・・いや、わしならではの画が、きっとあるはずじゃ」
文明十八年(1486年)雪舟は、自らの山水画に対する思いを、『山水長巻』に結集させる。『山水長巻』は、自然の四季の移り変わりを、延々十六メートルの長きに渡り描ききった大作であり、また、古今の水墨画の一大傑作とも評されている。
この作品に、雪舟の積年の思いは実を結ぶこととなる。それは、移りゆく自然の中に人間の営みを織り込んだ、中国の山水画形式のものではあるが、そこに描かれた世界は、まさしく雪舟のものであった。大陸的でない、日本の人間ならではの繊細な季節感が、いきいきと描かれていたのである。
この時、雪舟六十六歳。彼は、ひとつの頂点を究めた。
雪舟(1420~1506)
備中国に生まれる。相国寺の周文から画を学ぶ。明国に渡り、画を学び帰国。山水画を中心とする水墨画を完成させ、さまざまな作品を残す。