川中島の合戦。謙信と一騎打ち。

武田信玄 四十歳

信玄は、夜の明けるのを待っていた。妻女山から降りてくる謙信を川中島にて待ちかまえ、討つという戦法をとっていたのだ。だが、空が白み、朝霧もようやく薄らいできた頃、甲州軍は突然、前方に謙信の大軍を見た。

「し、しまった!読まれていたか」
と驚愕する信玄。謙信は、信玄の策をすでに察知し、早くも山から降りてきていたのてある。

ここに両軍は、激突する。時に永祿四年(1561)九月十日。第四回川中島の合戦。

戦いもたけなわの頃、諏訪法性の兜を戴き床几に腰をかけた信玄の目に、行人包みで顔を包んだ武者が、十数騎の従者を従え本陣に突進してくるのが見えた。誰あろう、上杉謙信である。

謙信、信玄の前に迫るや、
「おのれ、ここか」
と斬ってかかった。

それを軍配団扇で受ける信玄。少しも動揺せず、謙信を睨みつけ、
「推参者、退れ!」
とどなりつける。

合戦史の華、信玄、謙信の一騎打ち。信玄四十歳、謙信三十一歳の時と言う。

武田信玄(1521~1573)
甲斐の武田信虎の嫡男として生まれる。父を駿河に追放して自立、後に五ヵ国を支配する戦国大名となる。上杉謙信との川中島の戦いはあまりにも有名。