『枕草子』をまとめる。

清少納言 三十五歳

「女であるからといって、妻となり希望もなく夫につかえて老いてゆく、そんな人は、わたしは軽蔑したい気持ちです。やはり機会があるなら宮仕えをして、世の中を広く見たいものですわ」

清少納言は、二十七歳の頃、十年の結婚生活に終止符を打ち、夫と子供を捨てて、宮中に出仕する。一条天皇の中宮、定子のもとに仕え、雅やかな宮廷生活を送るのである。その才をうたわれた女性としては、自然な成り行きと言えようか。

彼女はここで、当時の自然や風物から年中行事、宮廷での暮らし、着物の色に至るまでを、持前の批判精神と鋭い感覚で、思うがまま書にとどめていった。それをまとめたものが、世に名高い『枕草子』である。

『春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこし明りて、紫だちたる雲の・・・・・。 ありがたきもの 舅にほめらるる婿。また姑に思はるる嫁の君。・・・ 男こそ、なほいとありがたくあやしき心地したるものはあれ。・・・・』

清少納言が『枕草子』の草稿をまとめたのは、彼女が三十五から三十六歳の頃と言われている。

清少納言(966?~1025?)
平安中期の女流文学者。学者の家系に生まれ、早くから学問にすぐれていた。一条天皇の皇后定子に仕え、随筆家としての地位を宮廷の中に築いた。