クライスラー タウン&カントリー

クライスラータウンアンドカントリー
クライスラー タウン&カントリー 1947年

アウトドア派御用達の木の車。

ドアが木製のアメリカ車。クライスラーのタウン&カントリーである。この車の初代は、1941年に木製のドアパネルを持つステーションワゴンとして登場した。

戦後は1946年から製造が再開されるが、今度はステーションワゴンではなく、セダンとコンバーチブルが売り出された。上の写真は、1947年モデルのコンバーチブルである。

このデザインはどこから?

ボディの一部を木で作る・・・このデザインはどこから来ているのだろう。タウン&カントリーという名が示す通り、都会人のカントリーへの回帰、憧れがあるのだろうか。

タウンアンドカントリーのスタイル
タウン&カントリーのスタイル
ボンネットとフェンダーまわりはスチールだが、ドアパネルと後部のトランク部分が木製になっている。しかもコンパーチブルでオープンなのだから、この車に乗ると相当目立つだろう。
タウンアンドカントリー実車
タウン&カントリー実車
幌を被せたコンパーチブルタイプだ。ボディのグリーンと木の色がマッチして美しい。さすがアメリカ車、堂々たるものである。
Mr.choppers, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

最初にこの車はステーションワゴンとして登場した。ステーションワゴンとは、もともとステーションつまり鉄道の駅についたお客を迎えにゆく馬車のことを表している。馬車時代の名残もあり、自動車が使われるようになってもお客とその荷物を乗せる客室は木製だった。

最初のステーションワゴン
最初のステーションワゴン
アメリカで最初に作られた自動車によるステーションワゴン。フォードT型をベースに木製の客室が備えられている。後席には窓ガラスはなく、客は向かい合わせに座るようになっている。
besopha, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons】

ゆえに1941年の最初のタウンアンドカントリーは、その流れで木製パネルが使われていたと考えることができる。また、お客を迎えにゆくという使用目的からすれば、この車は、基本的に商用車でもあった。

1941年型の車
1941年型タウン&カントリー
1941年に登場した初代タウン&カントリー。4ドア、8人乗りのステーションワゴンであった。ボディ側面に木が使われている。
Greg Gjerdingen from Willmar, USA, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】

戦後、この車はセダンとコンバーチブルになったが、ドアの木製パネルは受け継がれた。なぜ、セダンやコンバーチブルなど個人用の乗用車となっても木製ドアなのだろうか。それは、アメリカ人のアウトドア好きと関係があるようだ。

木製であることのもうひとつの理由。

ボディの一部に木を用いる車は、このタウン&カントリーだけではない。1930年代から60年代にかけて多くのメーカーから出されていた。それはウッディーとも呼ばれ、自動車の車体スタイルの一つになっている。

英語のウィキペディアの解説によれば、ウッディーは、シューティング・ブレークという馬車のスタイルに由来しているらしい。シューティング・ブレークとは、狩猟で使われる馬車で、乗員といっしょに射撃の道具や撃った動物、鳥などを運べる馬車であり、硬い木材で客室部分が作られていた。そのスタイルが生かされたようである。

狩猟といえば、その昔は釣りと並びアウトドアレジャーの王道でもあった。ウッディースタイルの自動車はその頃の記憶をとどめたアウトドアレジャーの道具というわけでもある。

シューティング・ブレークの写真
シューティング・ブレーク
2頭の馬が引く馬車である。これから狩猟に出かける人を乗せている。1903年に撮影された写真である。
University of Washington, Public domain, via Wikimedia Commons】

タウン&カントリーはアメリカの富裕層に売れたそうである。当時の富裕層の人々は、やはり平日は都会で暮らし、週末には車で森の別荘に向かうというライフスタイルだったようだ。ゆえに都会とカントリーを往復する車は、アウトドアレジャーの伝統を感じさせる木製パネルの車だ、ということになったのだろう。

車には昔から木が使われていたが・・・。

車の材料に木材を使うということは昔からあった。自動車が社会に登場した頃は、エンジンやシャーシは金属だが人間が乗る部分、いわゆる上モノは木製が多かった。自動車自体が馬なし馬車と呼ばれ、馬車の発展形であり、馬車の客室を作る業者が自動車のキャビンも作っていたのだから当然の成り行きだったのである。

日本にも昔は一部が木製の自動車がたくさんあった。例えば昭和30年代のトラックは、シャーシの上に木製の荷台を付けていたし、ボンネットバスの床も木製で黒いワックスが塗られていたものだ。だから、木を使った自動車は少し古いというかオンボロというイメージもあった。いい車は、やっぱり鉄の荷台のトラックだし、樹脂製の床を貼ったバスだったのだ。

しかし、このタウン&カントリーは、お金持ち好みの高級車だ。高級車のインテリアには美しい木目を使ったものがあるが、それをエクステリアにも使っているのがこの車だ、と考えることができる。しかもプリント合板の木目ではなく、天然目の木目なのだから贅沢この上ない。当然値段も張る。大衆車の3倍くらいの価格がしたそうである。

家具でも木目のプリントがされたベニヤ合板より天然目を使い木目をそのまま出している方が高級である。「天然木でなければこの艶は出んな。」なんてお金をつぎ込んだ座卓を自慢する親父と同じで、高級が大好きなアメリカの富裕層にこの車はウケたのだろう。

斜め後ろから見た実車
天然木が使われている
タウン&カントリーの木製部分のアップである。フレームには北米原産のホワイトアッシュが、パネルにはマホガニーが使われた。
Damian Gadal, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】
1941年製の運転席まわり
運転席まわりの木材
これは、1941年製の初代タウン&カントリーセダンタイプだ。ドア全体が木製で、内部のインテリアも木目を生かしたものとなっている。これまた贅沢である。
Corvair Owner, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons】

アウトドアで贅沢するならこの車。

タウン&カントリーに使われているのはアメリカ原産のホワイトアッシュとマホガニーである。本当の木材なのであるから良い状態を保つためには日頃から手入れを行う必要があった。雨や日光にさらされていれば劣化が早まるので、ガレージに入れておくことも求められた。

そんな手入れが難しいという点においてもお金持ち好みであった。しかもこんな高級品の車を駆って週末は森の別荘へ、つまりアウトドアレジャーを楽しむに行くのである。

今はSUVが車の一つの流行でもある。SUVに乗る人は結構車にお金をかける。山に行くから本格的な四輪駆動で、タイヤもクロスカントリー仕様にしてウインチも付けて・・・なんてだんだんハマってゆく。しかし、そんな車に乗りながら本格的なオフロードなんて運転する機会はあまり無い。オフロード装備もどちらかといえばミエであろう。

それなら、同じお金をかけるなら、オフロード装備よりもタウン&カントリーのようなウッディーに乗ったほうがいいのではないだろうか。こっちの方がよっぽどミエを張れるのである。

タウン&カントリーの動画
シカゴの博物館にある1947年製タウン&カントリーを紹介する動画である。ほぼオリジナルの車両を詳細に解説している。この車がいかに豪華であったがわかる。