これぞ、英国のオープンカー。
ツーシーターのオープンカーである。スッキリしたボディラインが美しく、タイヤにはスポークホイール。オープンカーと言えばこの形、そんなスタイルの車である。これはイギリスの自動車メーカーMGのMGBだ。1962年に登場し、1980年まで18年間も販売され続けたヒット車である。
オープンが人気のメーカーMG。
MGとは、もともとイギリスのモーリス・モーターの経営者ウィリアム・モリスが設立した企業で、自転車やオートバイの製造販売を手掛け、後に自動車を扱い始めたモーリス・ガレージがルーツとされている。
つまり、モーリス・ガレージ(Morris Garages)の頭文字を繋げてMGなのである。MGは、1920年代にはスポーツカーを製造販売するメーカーとなり、1930年代には二人乗りのオープンカーを次々に市場に投入し人気を得ていた。
そんなMGも、イギリスの第二次世界大戦参戦のため車の製造を中止するが、戦争が終わるとすぐにまたオープンカーを登場させる。1945年というまさに終戦の年に、待っていましたとばかりに開戦直前まで販売していた車MG TAやTBの改良型であるMG TCミゼットを出したのである。
開戦前まで作っていた車の改良版であるから、スタイルはやはり1930年代のものである。その後もMG TD、MG TFと改良を加えバージョンアップしてゆくが、時代遅れ感はどうしようもなかった。
戦後型の車MGB。
そこでMGは、それまでとは異なるスタイルの車MGAを1955年に発表する。このMGAもツーシーターのオープンカーで、1500CC直列4気筒エンジンを空力設計が施されたボディに載せた車であった。曲線を基調としたボディデザインは、今見てもかなり洗練されており、MGBより好感を持つ人も多いのではないだろうか。
MGBは、そのMGAに続く車であり、1962年に登場した。MGBは当時の車の一般的な構造となりつつあったモノコック構造、つまりボディとフレームの一体成型を採用し、各部に改良を施した近代的な車であった。しかも、小型で軽い車体に1800cc直列4気筒エンジンを搭載。パワフルで運転しやすく、信頼性の高いオープンカーとして人気を得、大ヒットするのである。
MGAは、やわらかな曲線が美しい車だが、やはり戦前からのスタイルを受け継いでいた。それに比べるとMGBはスッキリしたデザインの戦後型と言える。戦前の車と比べると車高が低く、車幅は広く、安定感がある。路面を滑るように走り、ハンドリングにもしっかり応える。そんな運転することの楽しさを味わえるオープンカーに仕上がっていたのである。
MGBは、今でこそ当たり前のオープンカーのスタイルではあるが、当時の車好きには、このスタイルが堪らなかったのである。その点でMGBはオープンカーの歴史を作ったとも言えるかもしれない。
アメリカなどへの輸出仕様がメインだった。
さて、上に掲載したMGBの運転席をよく見ると左ハンドルである。イギリスは日本と同じ左側通行なので、車は右ハンドルのはずなのだが・・・。実はこのMGBは、右側通行の国へ輸出した車なのである。輸出先は主にアメリカであった。
第二次世界大戦では、イギリスは連合国側としてアメリカとともに戦い勝利する。戦後もアメリカ軍はイギリスに駐留していたのだが、そんな駐留軍の兵士が、小型で運転しやすく性能に優れたイギリスの車に目をつけた。「アメリカのデカいだけの車と違ってコイツはクールだぜ!」と言ったかどうかは知らないが、MGをはじめとするイギリス車が気に入ってしまったのだ。
戦争で疲弊した戦後すぐのイギリスの人々には車、それもオープンカーやスポーツカーのような車を買う余裕はなかった。暮らしを立てるだけで精一杯だったのである。しかし、アメリカは違っていた。街は戦災を受けなかったし、経済的に豊かで、精神的余裕もあった。そこにアメリカ人のイギリス車ブームがおこったのであるから、イギリスの自動車メーカーとしては、活路をアメリカに見出すしかなかったのである。
MGでは、戦後すぐのモデルとして投入した車には、最初から左ハンドル仕様の製造を見越した設計を行い、輸出に力を入れた。MGBの前のMGAは、戦後10年目にあたる1955年に登場したが、やはり製造した車の約半数を北米に輸出している。
そしてMGBもアメリカへの輸出を前提とした車であった。1962年の量産第1号車も左ハンドル車であった。MGBは生産終了まで52万台も製造されたが、そのうちの3分の2が北米へと輸出されている。
スタンダードなオープンカー、MGB。
なぜアメリカの人々にこの車は人気があったのだろうか。MGのオープンカー、特にMGBには、他のヨーロッパ車に見られるようなアクの強さがない。極めてスタンダードなスタイルであるところが良かったのではないだろうか。
こうしたMGBのスタンダードさは、この車のファンの多さに繋がっている。現在でも旧車のオープンカーと言えばまず挙げられるのがMGBだそうだ。日本にもファンクラブがある。
小型で扱いやすく、スタンダードなスタイルのMGB、この車はまさに、英国のオープンカーを運転している楽しさを十分に味わうことができる車なのである。