Hotchkiss Anjou

誰が何と言おうと、これが高級車である!
黒塗りのセダンである。いかにも古き良き時代の高級車というスタイルのこの車、オチキスというフランスの自動車メーカーの車で、名はアンジュと言う。
アンジュとはフランス革命以前にあったフランス北西部の州の名前でもある。日本で言えば、武蔵とか播磨とか紀州、長州と言った昔の地名のイメージであろう。どちらにしても、伝統的なイメージであり、名前からしてもこの車は一般大衆向けでないことは確かである。
戦前の伝統を残す高級車、アンジュ。
オチキス アンジュが登場したのは1950年。第二次世界大戦が終結してまだ数年、アンジュは、戦前の伝統を残す高級車でもあった。例えば車の構造だが、エンジン、ギヤ、足回りを備えたシャーシと木製フレームの上に、鋼板のボディを乗せるという昔ながらの技術で作られている。
また、この車の運転席は右ハンドルである。フランスはアメリカなどと同じ右側通行なので普通は左ハンドルのはずなのだが・・・。実は、1900〜10年代の初期の車は、右ハンドルであった。それは、チェンジレバーが車の右側に付いており、運転手はそれを右手で操作しなければならなかったからだ。

オチキス アンジュの実車
2016年のクラシックカーイベントで見られたアンジュである。日本の車のように右ハンドルであることがわかる。
【Guillaume Vachey, CC0, via Wikimedia Commons】
2016年のクラシックカーイベントで見られたアンジュである。日本の車のように右ハンドルであることがわかる。
【Guillaume Vachey, CC0, via Wikimedia Commons】

1906年のオチキス車
1906年のツール・ド・フランスで見られたオチキスの車。右ハンドルである。当時の車は多くが右ハンドルであった。
【Jules Beau, Public domain, via Wikimedia Commons】
1906年のツール・ド・フランスで見られたオチキスの車。右ハンドルである。当時の車は多くが右ハンドルであった。
【Jules Beau, Public domain, via Wikimedia Commons】
時が経つに連れ、右側通行の国では次第に左ハンドルの車を生産するようになっていくのだが、一部の高級車では右ハンドルを採用していたようである。アンジュは、戦後になってもそれを守り続けていたのである。高級車は右ハンドルでなければいけないという確固たる信念がオチキスにはあったのだろう。
