地元で製造でき、修理も簡単なダラット。
さてダラットだが、この車もベイビーブルスと同様に、2CVのエンジンやトランスミッション、サスペンション、ブレーキなどに、地元で製造した金属製のボディや布製の幌、シート、ライトなどを組み合わせて作り上げられている。もちろんボディは丸みを帯びたところがない。職人が鋼板を折り曲げて作っているからだ。
このジープのようなデザインはお世辞にもカッコがいいとは言い難いが、どこか味があることは確かだ。特にフロントのライトとラジエターグリルが作る顔の形が微妙である。

ダラットのスタイル
職人が作る角張ったスタイルが特徴だ。正面の顔がアニメのキャラクターのようでカワイイ。また、後部の窓が広く取ってあり開放感がある。
職人が作る角張ったスタイルが特徴だ。正面の顔がアニメのキャラクターのようでカワイイ。また、後部の窓が広く取ってあり開放感がある。
しかしこの車、簡単な作りであるので、車体が軽くて低燃費であった。さらに、特別な製造機械が不要で、平均的な技能の職人であれば製造ができるため、壊れても修理や部品交換が簡単というメリットもあった。
また、当時はダラットに追い風も吹いていた。ダラットが生まれる前年の1969年、南ベトナムの経済は不況に陥り、政府は自動車の輸入禁止令を出していた。それによって、ベトナム国内で製造する車が大いに求められるという状況になっていたのである。

ダラットの広告
サイゴン自動車会社が出した広告。「あなたにプレゼントする新しい3CV ラ・ダラット」と書かれている。おもちゃの車のように見えるが、これぞサイゴン自動車会社の新車なのである。
【La Dalat, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】
サイゴン自動車会社が出した広告。「あなたにプレゼントする新しい3CV ラ・ダラット」と書かれている。おもちゃの車のように見えるが、これぞサイゴン自動車会社の新車なのである。
【La Dalat, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】
ダラットとはリゾート地の名前だったが。
因みにこの車の名のダラットとは、ベトナム南部にある高原リゾートの名前である。そこにはフランスの植民地時代の建物も多く残っている。シトロエンとしては、ダラットにメアリのようなレジャー用多目的車のイメージも付けたかったのかもしれない。
しかし、1975年にサイゴンが陥落し、南北ベトナムが統一されると、シトロエンの子会社サイゴン自動車会社は工場を閉鎖。シトロエン ダラットの製造も中止される。結局この車は、1970年から1975年までの間5000台ほど製造されたようだ。ベトナムの国情の変化とともに開発、製造され、消えていった車となったのである。
ダラットの紹介動画
1970年代撮影とおぼしきフィルムによりダラットが街を走る様子を紹介している。フランス領時代のエクストリーム・オリエント自動車協会やダラット製造の様子なども入っており興味深い。なお、ベトナムのクラシックカーの愛好家が、現在でも走るダラットを所有しているそうである。
1970年代撮影とおぼしきフィルムによりダラットが街を走る様子を紹介している。フランス領時代のエクストリーム・オリエント自動車協会やダラット製造の様子なども入っており興味深い。なお、ベトナムのクラシックカーの愛好家が、現在でも走るダラットを所有しているそうである。
