シトロエン ダラット

2CVがベースの車はダラット以前にもあった。

さて、最初に書いたように、シトロエン ダラットはシトロエン2CVをベースにした車である。2CVといえばあの個性あふれるフランスの国民車だ。その2CVの前輪駆動システムの上にジープのようなボディを乗せるという車となっている。

では、シトロエンはなぜジープのようなスタイルのダラットを登場させたのだろうか。実は、2CVがベースのジープのような車は、ダラット以前にも存在している。それは、ベイビーブルスという車である。

ベイビーブルスは、西アフリカのコートジボワールで、1963年に、ある個人によって作られたものである。自分の2CVをオフロードや草むらなどでも使えるように、ジープのような車に改造したのである。それは、元の2CVのボディを外し、金属や木材などで作られた新たなボディを取り付けたものであった。

この車は現地で人気となり、2CVを元にした多くのベイビーブルスが作られるようになる。なぜ人気となったのだろうか。それは、ベイビーブルスの形がコートジボワールという土地にとっては最適だったからだ。

シトロエン2CVの展示
シトロエン2CV
1960年の写真である。展示会で撮られたものだろうか。発売後10年以上経っていたが人気の車であった。
See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons】
シトロエン ヤガン
シトロエン ヤガン
ベイビーブルスタイプの車の一つヤガンである。この車は南米のチリで1970年代に製造されたものだ。職人が鋼板を叩いて製造したという車だという特徴がよくわかる。
Qwerty242, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

コートジボワールも元はフランス領で、ベイビーブルスが登場した頃は独立したばかりの国であった。従って悪路が多い。もちろん舗装路はあっただろうが、圧倒的に未舗装だったと思われる。そうなってくると、ジープスタイルの車が一番なのである。

また、コートジボワールには、車のボディを金属板からプレス成形するような機械を持つ工場が無い。従って、金属の板を切って折り曲げ、単純に合わせるだけのジープのようなボディは作りやすかったのである。

実際、ベイビーブルスは3万台以上製造、販売されたそうである。さらに、2CVをベースにしたこのタイプの車はコートジボワールだけでなく、チリ、ギリシャ、インドネシア、イランなど世界各国で作られるようになっていった。そして、ベトナムでは、シトロエン ダラットが作られたのだ。

ギリシャのナムコポニーの写真
ギリシャのナムコポニー
ギリシャで作られたベイビーブルスタイプの車である。ラジエターにシトロエンのマークが入り、鋼板のドアが付き、形もスマートである。この車は実際に他より品質が良く、1972年から3万台も製造された。アメリカを始め世界各国に輸出もされている。なお、後ろには2CVが見える。
Craig Howell from San Carlos, CA, USA;cropped and altered by uploader Mr.choppers, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】

次ページ
地元で製造でき、修理も簡単なダラット。