日産 チェリー

日産自動車初のFF車、チェリー。

日産チェリーにはこうした意欲的なデザインに加え、もう一つ大きく、しかも大切な特長があった。それはFF車であるということだ。

チェリーは、1966年に日産に吸収合併されたプリンス自動車が合併前から開発、研究を行っていたFF車でもあった。FFとはフロントエンジン・フロントドライブの略。つまり、車のボンネット内にあるエンジンで前輪を駆動させる方式のことである。

FFは、このチェリーが最初ではない。ヨーロッパでは戦前からFF車が作られていた。

特にフランスのシトロエンはFFの開発に積極的で、1934年にトラクシオン アヴァンという車を出し、ヒットさせた。トラクシオン アヴァンとはそのものズバリ前輪駆動という意味でもある。

また、日本で最初にFFを出したのはスズキ自動車であり、ホンダのヒット車N360もFFだった。

トラクシオンアヴァン
トラクシオン アヴァン
シトロエンの前輪駆動車。1934年から1957年まで製造していた。写真は1934年製で戦前のものである。
Lars-Göran Lindgren Sweden, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】
N360
ホンダN360
発売するとスバル360を抜いて売上トップとなったホンダのヒット車。この車も前輪駆動だ。
韋駄天狗, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

それまでに多くのFFが世に出てはいたが、当時は車の駆動方式で一般的なものといえばやはりFR、つまり前にあるエンジンで後輪を回すというスタイルだった。日産はここで敢えてプリンス自動車時代から開発が進められていたFFを投入したのである。日産としても初めてのFF車であった。

なぜFFか。そのメリットとは?

FF車にはいくつかのメリットがある。まず、前のエンジンの力を後輪に伝えるシャフトが不要になるため、車内空間を広く取れるという点だ。

また、車の前部が重くなるためトラクションが増し、安定して走ることができるという点もある。そして、燃費にも優れているという点も見逃せない。

簡単に言えば、FF車にすれば車内がより広くなり、運転しやすく燃費も良いということで、よいことずくめなのだが、当然デメリットもある。前輪で駆動して操舵するため、運動性能がFRより少し劣るという点、スピードを出す時や坂を登る時に力を伝えにくいという点などがあげられる。

つまりFF車では、ハンドルさばきやアクセルワークを楽しむといった車を運転する時のワクワク感が減るということだ。車好きで、運転することが大好きな人にとっては多少物足りなく感じてしまうのがFF車なのである。

日産チェリーのCM
京都のお寺と車が大好きな浦さんが運転するチェリークーペ。細く、狭い坂道をグングン登ってゆく。「経済的でトクやなあ」と燃費の良さを強調し、今だからチェリーと訴えている。

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当時の自動車の利用状況を考えると・・・。