トラバント

愛嬌のあるデザインだが、性能は昔のまま。

トラバントは、正面から見ると、カーブのついたラジエターグリルにより微笑んだ顔に見え、とても愛嬌がある。しかし、こうした個性的なデザインを持つ一方、その性能は60年代のままで旧態依然としていた。

トラバント正面
正面から見ると微笑んだ顔に見える。愛嬌ある車である。
トラバントコンビタイプ側面
コンビタイプつまりステーションワゴンのトラバントである。セダン以外の車種も作られていた。

2ストローク空冷直列2気筒エンジンで排気量は600CC。大人4人が乗車しなんとか時速100キロは出せたようだが、高速で走り続けるのは難しいという代物だった。また、変速機もサスペンションも旧式で、燃料計も付けられていなかった。当時の西ドイツでは1985年から自動車の排ガス規制が始まっていたが、当然それに適合する車でもなかった。

トラバントを紹介する動画
外観はもちろん内装、エンジンルーム、走る姿などを紹介。走行中にエンストする様子も入っている。

さらに、ボディがボール紙でできているという噂も横行した。実はトラバントのボディは鉄製ではなく、軽量化のためFRPで製造されている。FRPといえばヨットなどにも使われている繊維強化プラスチックのことだ。普通はガラス繊維などを使ってプラスチックを強化するが、トラバントの場合は、なんと綿の繊維を使って作られていた。また、実際に製造コスト削減のため紙パルプと羊毛を使っていたという話もある。このあたりがボール紙伝説を産んだのだろう。

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東ドイツの庶民が買える車は、これだけだった。