リアエンジンの商用車として。
スバル サンバーには、リアエンジン車という大きな特徴がある。つまり、エンジンが後ろにあるということである。ここもスバル360が関係しているが、テントウムシとも呼ばれたスバル360はドイツのフォルクスワーゲンビートルのように後部にエンジンを載せ後輪を駆動させるRR、つまりリアエンジン・リアドライブ車であった。その流れを受け継いでいるのである。
この当時、鈴木自動車のスズライト キャリイやダイハツ工業のハイゼットなど、軽の4輪トラックやバンが登場してきていた。しかし、それらは多くが前にエンジンを搭載し後輪を回すFR(フロントエンジン・リアドライブ)であった。したがって、運転席の前にはボンネットがつく。しかし、サンバーの場合は、後ろにエンジンを搭載しているため、前輪の上が運転席となるキャブオーバーとなり、荷物室や荷台を広く取ることができた。

鈴木自動車が昭和36年(1961年)に発売した軽の商用車。バンとトラックがあったが、上はバンである。ボンネットがあり、乗用車のライトバンを思わせるスタイルだ。
【Mytho88, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

サンバートラックを後ろから見たところだ。荷台の最後部にエンジンが入っている。なお、この車は昭和44年(1969年)製の2代目サンバーである。
【dave_7 from Lethbridge, Canada, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】
しかも、RRのメリットは荷物スペースの広さだけではない。後ろに載せたエンジンがよい重りとなって坂道でもスリップが少なく、安定して走ることができたのである。また、当時の商用車では珍しくサスペンションに4輪独立懸架を採用していた。これによりソフトな乗り心地となっていたが、荷台に載せた品物の破損が少ないという商用車ならではのメリットもあった。

サンバーのバンは、当時はまだ珍しかったボンネットのないキャブオーバータイプ。エンジンはリアに積まれている。現在の軽よりも全体のサイズは一回り小さいが荷室は広く、そこが人気だった。
使用目的を考えて生まれたキャブオーバー。
商用車にとって、積載量が多く、大型の荷物でも積めるというのは大きな魅力である。また、揺れがソフトなサンバーは、壊れやすい荷物でも安心して運べただろう。特に大きな板ガラスや畳を扱うお店などでは、サンバーでないと商品が運べないということで絶対の信頼を得たようである。
競合他社の軽商用車も、サンバーの登場以後はみなキャブオーバータイプへとモデルチェンジしていった。特に荷室の広さというのは、車のサイズに制限のある軽商用車にとっては差別化の大きなポイントとなったのである。

手前が牛乳店で、幌をかぶせた荷台に配達用の牛乳を積んでいる。この頃の牛乳はガラスのビンであった。
また、奥は竿竹屋のサンバーだ。長い竿竹を積んで狭い路地でも入って行った。

こちらは、ガラス店のサンバーである。大型のガラス戸を積んでいる。
実は、軽の商用車で最初にキャブオーバーを採用したのはサンバーではない。昭和35年(1960年)に販売を始めたくろがね ベビーが最初である。くろがね ベビーは、オート三輪の老舗メーカーであった東急くろがね工業が開発した四輪の軽自動車で、やはり荷台、荷室の広さから評判となっていた。
スバル サンバーは、そのくろがね ベビーの後を追ったことになる。だが、オート三輪から出発したくろがねとは違い、サンバーは日本の商売の事情を考慮して作られた四輪の商用車であった。開発姿勢のベースが異なっているのだ。それゆえ、扱いやすさや信頼性からくろがねベビーを抜いて大きくヒットすることになる。
