ダイハツ ミゼット

ウチにもクルマがある、ミゼットがある。

昭和30年代前半は、庶民が自家用車を持つなんて、夢のまた夢であった。仕事用の車であっても、一般の商店や零細企業では簡単には購入できなかった。

ミゼットはそこに入り込んだ。「ウチもそろそろ車を。ミゼットなら、ゼイタクじゃなく商売のためなんだから。値段も手頃だし、テレビでもコンちゃんがミゼット、ミゼットと言ってるし・・・」なんて会話があったりなかったり。いずれにしても、「キヨミズの舞台から飛び降りたつもりで」ということで商店主や会社の社長さんはミゼットを購入した。

実際に当時の値段を調べてみるとミゼットは20万円前後。普通のオート三輪が40〜50万円したので、その半値以下で購入できた。ちなみにスバル360は42万5千円であった。同じ軽でもスバルよりも安かったのである。さきほど紹介したCMでも「2輪車なみのお値段」と紹介している。

昭和30年代の映像に登場するミゼット
商売や仕事にミゼットが活躍している様子がわかる。

スバル360が自家用車を持ちたいという庶民の願いをかなえた車なら、ミゼットの方は繁盛のためという大義名分のもとに、商売をしている家庭に広まった自家用車と言えるだろう。事実、ミゼットMP型のカタログには「おやすみには…アベックでミニカー・ドライブ」と、仕事ではなくレジャーで使うことを提案しているものがある。

こんな経緯で、ミゼットは日本人が自家用車を持つようになった時代を象徴するクルマのひとつとなったのである。