ホンダ S800

初のオープンカーをお披露目。

昭和37年(1962年)、ディーラー向けのイベントで、ホンダは、初のオープンカーS360をお披露目した。このS360が、ホンダのSシリーズのベースとなる車だ。さらに、同年10月に東京で行われた第9回全日本自動車ショウでは、このS360が軽トラックT360とともに展示され話題を呼ぶ。今で言うところのコンセプトカーである。

S360は、356ccのDOHCエンジンを積んだ軽のスポーツカーで、ホンダが二輪車の製造で培った技術を注ぎ込んだものだった。同じイベントで531ccのDOHCエンジンを積んだS500も展示され、実際はこのS500がホンダのSシリーズ第1弾として一般に販売されることになる。

ここで、軽自動車のS360ではなくS500の方を販売するというのも、自動車産業の新規参入の規制への対抗策でもあったのかもしれない。ウチは、軽自動車だけではなく、普通自動車もできるのだと。

ホンダ S500
ホンダS500
昭和37年(1967年)に発表され、翌年から一般向けに販売されたホンダ初の四輪スポーツカー。S800とはフロントグリル周りとバックランプが異なっている。
Mytho88, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

S500発売時にはキャンペーンを実施。

S500の発売にあたっても興味深い話がある。S500は、昭和38年(1963年)10月に販売開始されるが、その4か月前の5月、ホンダは、新聞紙上に「新発売のホンダS500の価格はいくら?」というクイズを掲載。S500発売キャンペーンを行った。

しかも、この時ホンダは、四輪車生産を全国に宣伝するとして、本社ビルをはじめ全国のホンダの販売店、つまり街のバイク屋さんに「ホンダ四輪車生産開始!!」の大きな垂れ幕を下げさせ、デモンストレーションも行ったのである。

この四輪車生産開始のアピールが人々に届いたかどうかはわからないが、価格クイズには結局573万通もの応募があり、S500というスポーツカーは人々の興味を惹きつけたようである。なお、クイズの回答で最も多かったのは48万5000円であったが、実際の発売価格、つまり正解はそれを下回る45万9000円であった。

ホンダS500は、人々の考える価格よりも実際は安かったわけで、これはお得な車だという訴えとなったのだろうか。確かに想像するよりは安かったと感じる人も多かっただろう。しかし、ホンダとしては、安さよりも、こうした大々的な発売キャンペーンも行える自動車会社であることを世間にアピールしたかったのではないだろうか。

ホンダS500広告キャンペーン記録映画
YouTubeで公開されているキャンペーンの記録映画。S360とS500のお披露目に始まり、S500の価格クイズ、ホンダの四輪車生産開始キャンペーンなど、一連の流れが記録された貴重なフィルムである。
なお、映画の制作は東映が行っている。ホンダも気合が入っている。

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S800でもアピールは終わらない。