フォード エスコート

“走り”で選ばれる時代の車だった。

60年代後半から70年代、やはり車は“走り”の良さが求められた。今ならば、乗り心地や運転のしやすさ、荷物の積載量などさまざまな要素が車を選ぶ際の比較材料になるのだが、当時はまず車としての性能だった。車を購入したい人たちは、走りの良い車、ラリーなどでいい成績を残した車を欲しがったのである。

だが、そんなラリーに強い車を持っていても、日頃の運転でその性能を発揮させる場などほとんどない。そもそも、普通のユーザーにはレーサーのような運転技能はないのである。

しかし、車さえあれば、自分も同じような運転ができるはず、と勘違いしている車オタクが多かったのだろう。また、当時は、若い男性が集まると車の性能や新しい機能でクルマ談義になるというのが普通でもあった。自動車を作って売るメーカーにとっては、いい時代だったのである。

エスコートのCM
当時のエスコートのコマーシャルである。走りに惹かれてスポーティなエスコートに乗りたい男性が、結局、奥さんの意見で家族で使えるワゴン車に決めてしまうというストーリーになっている。逆説的ではあるが、ラリーカーのような走りがエスコートの魅力であると訴えているのだ。イギリスらしいCMだ。

フォード エスコート、この車は、一見普通の乗用車だ。そして、生まれた経緯から考えるとファミリーカーでもある。しかし、ラリーの成績によって、エスコートには“走り”の車というイメージが付いた。でも、それがドッグボーン(犬の骨)のフロントデザインと相まってこの車の強い個性を形作っているのだから面白い。

エスコートとミニの後ろ姿
ある日のフォード エスコート
青いフォードエスコートの後ろ姿が写っている。右隣の黄色い車は、あのミニである。エスコートもミニも歴史的なイギリス車であり、その2台が仲良く並んでいるわけだ。
ここは幼稚園の駐車場で、これらの車のオーナーは幼稚園の女の先生とのことである。毎日使う普通のユーザーにとってはこれらの名車も単なるウチの車なのだということを忘れてはならない。そんなことを訴えている写真ではある。
Riley from Christchurch, New Zealand, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons