アメリカのタクシーの歴史を作ったチェッカー。
まずはここで、メーカーのチェッカー・モーターズについて語ろう。チェッカー・モーターズは、ロシア生まれのアメリカ人実業家モーリス・マーキンによって1922年に設立されたメーカーである。
このマーキンという創業者、根っからのビジネスマンであった。1910年代にマーキンは衣料品業で成功するのだが、その関連で事業を拡大するのでなく、倒産の危機に瀕していた自動車メーカーを買い取り自動車業界に参入するのである。マーキンが買い取ったメーカーは、シカゴとニューヨークで営業していたタクシー会社チェッカー・タクシー向けに、タクシー専用車を納入していた。
彼はそのタクシー車両の製造、販売に旨味を感じたのだろう。閉鎖された工場を買い取ってタクシー製造ラインを充実させ、他のメーカーからタクシー製造のノウハウを持つ技術者を引き抜くなど、タクシー車両の製造に重点を置くようになる。
そしてマーキンは、タクシー会社であるチェッカー・タクシーの営業権まで獲得する。タクシー製造だけでなく、タクシー事業そのものにまで参入するのである。しかも、チェッカー・タクシーのライバルであったタクシー会社イエロー・キャブまで買収する。この人物、やることが徹底している。

チェッカータクシーの広告
1929年1月7日付シカゴ・トリビューン紙に掲載された広告。地元の名士であろうウェナー男爵夫人が「シカゴのスマートなチェッカーキャブ」を推薦している。
【Checker Cab, Public domain, via Wikimedia Commons】
1929年1月7日付シカゴ・トリビューン紙に掲載された広告。地元の名士であろうウェナー男爵夫人が「シカゴのスマートなチェッカーキャブ」を推薦している。
【Checker Cab, Public domain, via Wikimedia Commons】

ニューヨークのチェッカータクシー
後ろにエンパイヤステートビルが見える。ニューヨークのマンハッタンで撮られたもののようだ。駐車しているタクシーはチェッカーのモデルYという車種である。1938年撮影。
【Don O’Brien from Piketon, Ohio, United States, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】
後ろにエンパイヤステートビルが見える。ニューヨークのマンハッタンで撮られたもののようだ。駐車しているタクシーはチェッカーのモデルYという車種である。1938年撮影。
【Don O’Brien from Piketon, Ohio, United States, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】
しかし、彼がタクシー業界で力を持つことによってアメリカのタクシーがより充実したのも事実である。マーキンは運転手に制服を支給し、乗客を乗せる際には運転手がドアを開けることを命じた。さらに、すべての乗客を乗せることも義務付けた。乗車拒否をさせないようにしたのである。まだまだ人種差別が激しかった当時のアメリカでは画期的なことでもあっただろう。
