デザインにこだわった、その理由は。
スズキは、画期的で革命的なアイデアで多くの車をヒットさせている。昭和45年(1970年)登場のジムニーは、本格的四輪駆動を軽の世界に持ち込んだ車として世界的にヒットし、今でも納車1年待ちとか言われる人気車である。また、平成5年(1993年)に発売したワゴンRは、現在の軽自動車の主流となっているトールワゴンの元祖である。
そんなスズキであるから、この時もそれまでの日本の軽商用車には無かった魅力を注ぎ込んだ。そのひとつがジウジアーロデザインである。スズキは、何をしたかったのか?ヨーロッパの商用車のかっこよさを実現したかったのではないだろうか。
フォルクスワーゲンタイプ2とか、シトロエンタイプHなど、確かにヨーロッパの商用車は絵になるが、ヨーロッパは町並み自体が日本の商店街とは違って絵になるのだから、当然といえば当然である。
でも、スズキは「機能重視の商用車とは違う車にしよう」と考えたのだろう。しかも、この4代目キャリイからは、デザインに合わせてインテリアや室内装備も充実させている。乗用車としての使用も見込んでいたようである。
この時代、70年代初頭は、車に意見を持つ若い世代が商店や中小企業の中心的な働き手となりつつあった。そんな世代の感覚に合わせようとしていたのかもしれない。かっこいい商用車であり、商売以外でも普通に使え、乗っていて自慢できるような車としたのである。
若い人向けに売り込んだキャリイ。
スズキ キャリイのカタログを見ると、スズキの戦略が読み取れる。それまでの軽の商用車の宣伝といえば、商売繁盛がテーマで、社長さんが喜んでいるようなものが多かった。
しかし、キャリイのカタログに登場するのは社長さんや商店の親父さんではない。若いカップル、当時の言葉で言えば“ヤング”である。さらに、カタログの表紙に大きく掲げられているNEW CARRYのロゴも、当時の若者に流行していたサイケ調だ。
スズキは、こんな調子で、ジウジアーロデザインのキャリイを訴えるのである。スマートなヤングが軽の商用車でご満悦という図は最初は違和感があるものの、慣れてくればそれなりにかっこいいと感じるのだから不思議である。
トラックのカタログであるが、若い男女のモデルを使って展開。おじさんの店主や社長は出てこない。
こちらはバンのカタログである。キャッチフレーズは「お店のイメージアップにこの一台」。やはり、目指すのは繁盛ではなく、イメージアップなのである。
こうして登場したキャリイだったが、そのかっこいいデザインが仇となる。バンの荷室の後部がフロントと同様に斜めになっていたため、荷室の狭さがユーザーに敬遠されたのである。結局、ユーザーはかっこよさではなく、商用車としての能力を重視していたのだ。この狭さは続く5代目で改善されるが、それはもうジウジアーロデザインではなくなっていた。
