アウトビアンキ A112

古参の自動車メーカー、ビアンキ。

では、そもそもビアンキとはどんなメーカーなのだろうか。ビアンキは、1885年に創業したイタリアの自転車製造メーカーである。この会社は現存し、世界最古の自転車メーカーとして知られている。

ビアンキは、1887年からオートバイの製造をはじめ、1903年には自動車の製造も始めている。ちなみにイタリア最大の自動車会社フィアットの創業は1899年である。ビアンキは、まさに自動車製造の初期のメーカーのひとつなのである。

ビアンキの製造する自動車は、高級車であった。ビアンキが自動車製造を始めた時代、自動車そのものがすでに贅沢品ではあったが、ビアンキはお金持ちのために高価な材料を使い、こだわって製造した自動車を提供していたのである。

ビアンキの1913年の広告
ビアンキの自動車広告
オランダで出されたビアンキの自動車の広告である。1913年の広告であるが、大型の豪華な乗用車を販売していたことがわかる。「静かで速く、頑丈で信頼できる」と書かれている。
Conam.info, Public domain, via Wikimedia Commons】

ところがビアンキは、1930年代になるとトラックの製造を開始し、第二次世界大戦を経て戦後しばらくはトラックをはじめとする商用車製造を行うメーカーとなっていた。しかし、かつては高級車を製造していたメーカーとして、乗用車への思いが捨てられなかったのだろう。1955年に自動車メーカーのフィアットとタイヤメーカーのピレリの支援を受け、アウトビアンキを設立するのである。

アウトビアンキは、フィアット車がベース。

アウトビアンキのアウトとはオート、つまり自動車のことだ。自動車、それも乗用車を製造するのだという決意がこの社名にも表れている。

アウトビアンキとして最初に手掛けたのは、ビアンキーナという小型車であった。それはチンクエチェントという愛称で知られるフィアット500をベースにした車で、フィアット500よりも少しハイグレードでエレガントな小型車という位置づけで販売された。

庶民向けの車というよりも少し上の層を狙っていたのだろう。やはり戦前に高級車を製造していたという自負があったのだろうか。

次ページ
A112、もともとは試験的な車だった。