トライアンフとは、どんなメーカーか。
さて、イギリスの自動車メーカートライアンフであるが、1885年創業であるからかなり古い会社だ。自転車の輸入、販売から始まり、製造を行うようになり、1910年代の終わりにはオートバイメーカーとして名を挙げる。そして、二輪車の製造、販売から四輪車つまり自動車の製造へと手を伸ばし、1930年に名をトライアンフ・モーター・カンパニーとするのである。
自動車メーカーとしては後発だったトライアンフは、大メーカーに対抗するため高級車の製造、販売に力を注ぐことになる。30年代にトライアンフが送り出した車にトライアンフ ドロマイトがある。当時流行の流線型デザインを反映したウォーターフォールと呼ばれるラジエターグリルが特徴で評判となり、多くのモデルが製造された。

1893年に出された「ビーナスの勝利(トライアンフ)」と題したポスター。しとやかな女性でも颯爽と乗りこなせるトライアンフの自転車を訴えている。
【Moore, G. (18..-19.), CC0, via Wikimedia Commons】

1940年製のトライアンフ ドロマイトロードスター。戦前はこんなスマートで個性的な車を作っていた。フロントの曲線を活かしたラジエターグリルがウォーターフォールと呼ばれ人気となった。
【DeFacto, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】
しかし、二輪車では成功したトライアンフも四輪車の製造、販売は結局うまくゆかず、9年後に破産することになる。しかも、第二次世界大戦が勃発し、自動車の生産はストップすることになるのである。
コンパクトなロードスターを目指したTRシリーズ。
戦後、トライアンフはイギリスの老舗の自動車メーカーであるスタンダード・モーター・カンパニーに買収され、トライアンフという名前はスタンダード社のスポーツカーの名として残ることとなる。こんな状況の中で、1953年、スポーツカー・トライアンフのTRシリーズが生まれることになるのだ。
戦後すぐに、スタンダード社はトライアンフ ロードスターという車を製造、販売した。イギリスのスポーツカーとして名高いジャガーに対抗できる車として出したものだったが、そのデザインは好評を得なかったようだ。戦前のジャガーを思わせるデザインだったものの、その車はスタンダード社に買収される前にトライアンフが製造、販売していたスポーツカーと比べると古臭いイメージだったのである。

1948年型のトライアンフ ロードスター。見事なまでに強調された前のフェンダーと大きめのライトが特徴的だ。しかし、このデザインは時代錯誤と評され、まるでクリスマスの七面鳥だと言われた。
【Ricardo Diaz, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】
そこで、スタンダード社は新たに戦後のトライアンフ車の指標ともなるようなコンパクトなロードスターを製造することとした。それがTRシリーズである。イギリスのスポーツカーとして名高いジャガーと当時人気を得ていた小型スポーツカーMGとの間のマーケットを狙って開発したプロトタイプのTR1を、まず1952年に発表した。