タトラ T603

他では見られないRR車。

タトラT603、このリアエンジン車は、当時の世界の乗用車の中でも特異な車と言えるだろう。リアエンジンで後輪駆動という車は当時も多く存在した。フォルクスワーゲンビートルもポルシェもそうであるし、日本の国民車スバル360もそうだ。

タトラT603の宣伝映画
T603が猛スピードで街を走り回り、山道を登り、川を渡り、雪道もなんのそのと、やりたい放題。T603の性能を見せまくる映画である。この自由な雰囲気は、輸出用に作られたものかもしれない。

しかし、このT603は、他のRR車によく見られるようなコンパクトな車ではない。全長が5m、全幅が1.9mというビッグサイズで流線型。その車体に2500ccのV型8気筒空冷エンジンを載せて突っ走るのである。

普通、空冷エンジンは調整が難しく大排気量のエンジンには向いていないものであるが、タトラは空冷にこだわった。そしてこだわり続けて作り上げたのが、空冷の大排気量エンジンであった。T603はモンテカルロ・ラリーなどいくつかの国際的なレースにも参戦。優秀な成績を収めている。信頼性の高いエンジンである証拠でもある。

タトラT603ラリーカー
タトラT2-603ラリーカー
改良が加えられたタトラT2-603のラリーカーである。モンテカルロラリーのプレートが付いている。現在、スロバキアにある博物館に展示されている。
Pudelek (Marcin Szala), CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】

ところが、この車は、一般の庶民が乗って楽しむことはできなかった。タトラは、戦前から高級車を製造するメーカーとして名高く、戦前のリアエンジン車も皇帝や大統領などの御用達であった。このT603も、結局乗ることができたのは、共産圏の国々の政府高官や企業の幹部といったお偉方だったのである。

チェコ国際見本市での603
チェコの国際見本市でのタトラT603
1959年にチェコのブルノで開催された国際見本市での様子。人だかりができているが、ここにいる多くの庶民は乗ることはできなかった。
FOTO:FORTEPAN / Nagy Gyula, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

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共産圏だからこその車でもある。