シムカ アロンド

戦後フランス車のスタイルは・・・。

フランスの自動車メーカーと言えば、ルノー、シトロエン、プジョーなどが大手としてあげられる。最大手ルノーの戦後初のヒット車は、1946年登場のルノー4CVであり、フォルクスワーゲンのビートルに似た丸い車だ。日本でも日野自動車が生産し、その形から亀の子ルノーと呼ばれていた。

また、シトロエンからは、あの個性的なスタイルのシトロエン2CVが1948年に登場していた。2CVと言えば今でこそフランスの国民車として親しまれているが、発売当初はその特異なスタイルから“乳母車”とか“こうもり傘”とか言われたものである。

さらにプジョーが1948年に投入したプジョー203は、戦前の車よりは新しさがあったが、まだボンネットが高く全体的に丸みを帯びたデザインで、やはり保守的なイメージが拭えなかった。

ルノー4CVの写真
ルノー4CV
1948年製のルノー4CVである。全体的に丸く、フォルクスワーゲンのようなスタイルである。フェンダーとライトが一体となっているが、まだ戦後型のスマートさは見られない。
Lars-Göran Lindgren Sweden, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】
シトロエン2CVの写真
シトロエン2CV
シトロエンが戦後に製造したエコノミーカー、2CVである。新車発表の時、奇妙なデザインにお客が呆然としたという話がある。でも、ロングセラーとなり、シトロエンを代表する車とも言われるようになる。
Thesupermat, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

こうした大手の戦後初の新型はフランスの庶民に受け入れられヒットはしたが、シムカ アロンドのスタイルと比べるとお世辞にもスマートとは言い難い。アロンドにはやはりアメリカ車のようなカッコよさがあった。

そんな新しさがユーザーの支持を受け、アロンドは、1951年から1964年まで13年間製造、販売された。その13年間に、基本的なスタイルは変えずに何回かモデルチェンジを行っているが、このページの最初に載せた写真は、1955年登場の第2世代アロンド90Aである。第1世代よりもさらにスマートさを際立たせたデザインとなっている。

フィアットのライセンスメーカーだったシムカ。

では、なぜシムカは、このように新しさ、スマートさにこだわったのだろうか。それは、シムカという自動車メーカーの成り立ちが大いに関係している。

シムカが生まれたのは、1934年。イタリアの自動車メーカーフィアットの車をフランスで販売する会社であった。とは言っても、輸入ディーラーではなく、フィアット車の各部品を輸入し組み立てて売るという、ライセンス生産を行うメーカーであった。

当時のフランスは、自国の自動車産業の保護のために輸入車に高い関税を掛けていた。したがってイタリアの車をフランスで売るには、関税を免れるため、完成した車をそのまま輸入するのでなく、部品を輸入し組み立ててフランスの車として売る必要があったのだ。

こうしてシムカは戦前にはイタリアの人気車フィアット500をシムカ5という名前で、さらにフィアット1100をシムカ8として登場させフランスの市場でヒットさせるのである。

フィアット500の1936年の広告
フィアット500の広告
1936年の広告である。フィアット500は小さなビッグスターだと謳っている。出演しているのは当時の人気女優カルラ・スヴェヴァ。
DV, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】
シムカ5の写真
シムカ 5
フィアット500そのままの車である。これをシムカはフランスで組み立て、シムカ5という名前で販売した。
Alexander Migl, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】

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大戦後、シムカは自社開発をスタート。