1930年代から存在したタクシー専用車。
オースチンでも戦前からタクシー専用車を製造していた。1930年代のタクシーモデルを見ると、まだ辻馬車時代の慣習や伝統が残されていて興味深い。例えば、運転席の隣は助手席ではなく荷物置き場になっていたり、客席は幌の屋根になっていたりと馬車の仕様をまだ残していた。
1930年代と言えば、日本では円タクと呼ばれたタクシーが走り回っていた時代だ。市内なら1円均一でどこにでも行けるということで人気を呼んでいたが、タクシーとして使用する車は通常の乗用車だった。しかしイギリスでは、馬車の名残りを持った専用車両で営業していたのである。

1930年代のタクシー
1934年製のオースチン12によるタクシーである。助手席は荷物置き場であり客席は幌の屋根である。馬車時代の伝統がまだ残されている。
【Clive Barker, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】
1934年製のオースチン12によるタクシーである。助手席は荷物置き場であり客席は幌の屋根である。馬車時代の伝統がまだ残されている。
【Clive Barker, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons】
戦後、オースチンはタクシー専用車両としてFX3を1948年に登場させる。まだ助手席を荷物置き場とするなど戦前の形を残しているタイプだったが、ロンドンを走る黒いタクシーとして人々の認知を得るようになっていった。

そしてFX3の10年後、1958年にはFX4が新型として投入される。このタイプは、1997年まで細かなモデルチェンジを加えながらおよそ40年にわたって生産された。ゆえに、ロンドンっ子にとって馴染み深いタクシーはこのオースチンFX4と言えるだろう。
