公共の車からスポーツカーまで。
シトロエンDSは、一般の家庭の自家用車としてはもちろん、救急車やパトカー、タクシーなどの公共の車にも多く使用されていている。その一方でクーペ、つまりスポーツカーとしてのDSも生まれており、レース用に改造されたDSもある。実際にモンテカルロラリーで優勝もしている。
このページの最初に掲載したDS19は、シトロエンのディーラーだったアンドレ・リクーが1958年に作ったDS19クーペである。通常のDSのホイールベースを短くし、2ドアクーペとした軽快なイメージの車である。しかも、軽量で強力なエンジンを搭載したため、最高時速は180キロだった。

クーペと通常のDS19の比較
上がクーペで下が通常のDS19だ。クーペはホイールベースを短くして2ドアにしている。前に比べて後ろが短くなっているのがカワイイ。
上がクーペで下が通常のDS19だ。クーペはホイールベースを短くして2ドアにしている。前に比べて後ろが短くなっているのがカワイイ。
大統領専用車に空飛ぶDSも。
フランス大統領シャルル・ド・ゴールが主に乗っていたのもDSだった。しかもド・ゴールは1962年8月にこの車に乗車中、過激組織のテロに遭った。車には14発もの銃弾が打ち込まれ、片方の前後輪がパンクしたが、前輪駆動で安定して走行できるDSのおかげで命拾いしている。この事件を踏まえ1968年には大型で防弾、装甲設備を施した大統領専用リムジンのDSも作られた。

大統領が乗るDS19
1963年4月に撮影された写真。DSの上に上半身を出しているのはシャルル・ド・ゴール大統領である。前年の8月にテロに遭っているのにこの余裕。まだこの当時は平和だったのである。
【Gnotype, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】
1963年4月に撮影された写真。DSの上に上半身を出しているのはシャルル・ド・ゴール大統領である。前年の8月にテロに遭っているのにこの余裕。まだこの当時は平和だったのである。
【Gnotype, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】
そういえば空を飛ぶDSもあった。1965年のフランス映画「ファントマ電光石火」では、怪盗ファントマが乗ったDSが翼を伸ばし、飛行機よろしく飛び上がるシーンが出てくる。実際に飛行したわけではないが、フランスで人気の映画に使われるという事自体、いかにこの車が愛されていたかがわかる。
DSから羽が出て飛び上がる
映画「ファントマ電光石火」の一場面。羽が生えたら本当に飛びそうな車だから面白い。
映画「ファントマ電光石火」の一場面。羽が生えたら本当に飛びそうな車だから面白い。
街の人々が普通に運転し、公共交通機関でも使われ、スポーツカーとしても面白く、レースにも登場し、大統領専用車になり、空も飛ぶ・・・こんな車が他にあるだろうか。なるほど、20世紀で最も影響力を与えた車の第3位に選ばれるだけのものは持っている車である。
