メルセデスベンツ 300SL

ガルウィングドアが、注目の的に。

オートショーでは、国際的な耐久レースで勝ち抜いたメルセデスベンツのスポーツカーということで、大いにファンの注目を浴びただろうことは想像できる。だがやはり人目を引いたのはガルウィングドアであろう。ドアを開けるといきなり上に跳ね上がるのであるから、見物客の度肝を抜いたことは間違いない。

これぞ未来の車という感じであるが、当時のアメリカ車は、テールフィンや派手なバンパーなど目立つスタイリングが流行していた。その点、ガルウィングは目立つこと間違い無しのスタイルである。

しかし、ドアの切れ込みの高さは市販車でも変わらなかったため、基本的に乗り降りはしにくいままであった。跨いで車に乗り込まなければならなかったため、スカート姿の女性は乗りにくかったことだろう。

ニューヨークの国際オートショー会場の写真
市販車としてデビューした300SL
ニューヨークで開かれたオートショーの一コマ。ガルウィングこそ開いていないが、300SLは、メルセデスベンツのブースの主役であったことがわかる。
Daimler AG, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】
市販車の300SL ガルウィングを開いている
300SLの実車
レース用であった300SLとはフロント周りのデザインが異なる。また前後輪のフェンダーに太めのラインが入り、デザインポイントになっている。しかし、ガルウィングとドアの切れ込みの高さはレース車と変わらない。
Alexander Migl, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】

さらに、窓の開閉も基本的にできなかった。三角窓は開いたようだが、当時は乗用車にエアコンをつけることも一般的ではなかったので、夏のドライブは相当暑かっただろう。今の日本の夏だったら命に関わることにもなる。

でも、スポーツカーなのであるから性能やスタイル優先だ。目立つことが大好きなスポーツカーファンは、暑くても涼しい顔で乗る。それがベンツ300SLなのである。

結局、この車300SLは、その性能や先進性、ガルウィングドアという独特なスタイルによってメルセデス・ベンツのスポーツカーを代表する車となった。確かに、戦後10年たっていない時期にこのような車が売り出されたということ事態、驚嘆に値すると言えるだろう。

300SLとSLS AMGが2台並んだ写真 両車ともガルウィングドアを開いている
ガルウィング揃い踏み
右は300SL、左は2009年から14年まで製造されていたベンツのスーパーカーSLS AMGである。生まれてから70年も経つ300SLが、21世紀の車と引けを取らないのだからいかに優れたスタイルであるかがわかる。
M 93, CC BY-SA 3.0 DE, via Wikimedia Commons】

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日本での300SLと言えば、あの人。