1000とは見た目が全く違う、1000SP。
さて、このアウトウニオン1000から派生したのがアウトウニオン1000SPである。
SPとはスポーツではなくスペシャルの略だそうだが、かわいいリッターカーの派生車種がサンダーバードのようなスポーツカーというのも興味深い話だ。普通だったら1000のデザインのままで内装を豪華にするとか、コンバーチブルにするといった形になりそうだが、全く違うデザインにしたのである。
アウトウニオン1000とは全く違うデザインだが、システムは同様で、981ccのエンジンのFFである。最もエンジンは改良されて馬力がアップし、最高速度は時速140kmを出したそうである。では、なぜアウトウニオンは、こうしたスポーツカーをここに投入したのだろうか。
ロードスター、いわゆるオープンモデルである。やはり大型のアメリカ車とは違い、コンパクトだ。ドイツのアウディミュージアム所蔵の一台。
【Lothar Spurzem, CC BY-SA 2.0 DE, via Wikimedia Commons】
アウディミュージアム所蔵の1000SPの運転席。全体的にコンパクトだが、ハンドルの形が当時のアメリカ車の影響を受けているのがわかる。
【https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/53/AU_1000_Sp_Roadster%2C_Armaturen_%28museum_mobile_2013-09-03%29.JPG】
アメリカ資本の攻勢に対抗。
戦後10年が過ぎてドイツの経済や生活も落ち着きを取り戻していた。一般庶民も車を持つ生活を考えるようになってきていたが、この当時つまり1950年代に庶民向けの小型車を出し人気を集めていたのは、ドイツフォードとGMの傘下にあったオペルであった。
つまり売れていたのはアメリカ資本のメーカーによる車だったのである。そしてそのメーカーからはアメリカ車のイメージを持った車が次から次へと出されていた。
これに、ドイツの自動車連合アウトウニオンは黙っていられなかったのではないだろうか。自分たちにもアメリカ車のようなスマートなスポーツカーができるんだぞというわけである。そこで登場したのがフォードサンダーバードに似た1000SPである。
1000SPのオーナーが車を紹介する動画。内外装、エンジン、走行時の様子などが丁寧に撮られている。オーナーはこの車でヨーロッパの半分を旅したと豪語している。また、リッターカーにしてはエンジンの響きがいい。やはりスポーツカーなのである。
もともと小型車がベースであるので、本家サンダーバードよりひとまわり小さく、ベイビー サンダーバードというあだ名を頂戴したそうだ。本家の初代サンダーバードもベイビーバードと呼ばれていたので、ベイビー・ベイビーバードである。しかし、その小ささがよかったのだろう。本家よりも運転しやすく、乗り心地も優れていたようである。
1950年代は、図体の大きいアメリカ車が世間の人気をさらっており、富の象徴的存在でもあった。したがって、ドイツの自動車メーカーがそんな流行に合わせて車づくりを行うのも無理のない話ではある。
でも、それによってコンパクトで性能も優れたスポーツカーが生まれてしまったのだから面白い。当然ながらこの車、旧車ファンにはとても人気がある。
