オチキス アンジュ

保守的なスタイルに先進のシステム。

こうした背景を持つメーカーが第二次世界大戦後に製造、販売した車のひとつが、この車アンジュなのである。伝統的な構造で、保守的なスタイルを持った大型の高級車ではあるが、オプションとして電磁式のギアボックスも搭載可能であったという点に注目できる。これは現代のオートマチックの先駆けとも言えるギアチェンジシステムである。こうした先進の機械システムに関しては、やはりオチキスの兵器製造のノウハウが生きているのだ。

オチキス アンジュは、1950年の秋に発売され、その年に約1800台を製造、販売したようだ。大型高級車としては順調な売れ方だったのではないだろうか。ところが時代が悪かった。終戦直後ということもあって、人々には高級車を手に入れようという余裕はなかったのである。

オチキス アンジュのスタイル
オチキスアンジュのスタイル
1950年代の車にしては保守的で、伝統的なスタイルだが、兵器製造で培った技術を生かした先進的なシステムも取り入れていた。

また、当時フランス政府は、終戦後の自動車生産に関して、特に大型車に高い税金を課してもいた。こうした状況の中で、1954年までアンジュの生産は続けられたが、その翌年、オチキスは乗用車の生産を中止する。アンジュはオチキスとして量産した最後の高級車となったのである。

この頃、他のフランスの自動車メーカーであるシトロエンはDSを、プジョーは403を市場に送り出し、成功を収めていた。どちらも戦後型のデザインで、高級車と言うよりも庶民をターゲットにしたいわば大衆車でもあった。

オチキスアンジュ紹介動画
アンジュの外観からインテリア、エンジンルーム、トランクの中まで紹介。70年前の車だが美しくレストアしてある。

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兵器メーカーとしての自負が生んだオチキス アンジュ。