イタリアの経済復興に貢献した車。
この車が登場した1956年とは、第二次大戦が終わって12年、イタリアは急速に復興し、人々も豊かになりつつあった時だ。50年代中盤から60年代中盤にかけてのイタリアの高度経済発展は「奇跡の経済」と呼ばれたが、この奇跡の経済成長の初期に生まれた小型車が、乗用だけでなく、多目的車として活用されたのである。
イタリアの高度経済発展の象徴的な車としては、チンクェチェントとも呼ばれるヌォーヴァ500が取り上げられることが多い。ヌォーヴァ500は600の成功をもとに作られた小さな乗用車だ。アニメの「ルパン三世」の愛車として出てくるあの黄色い車である。
このヌォーヴァ500も、フィアット600や600ムルティプラのヒット無くしては生まれなかった。それゆえに、600ムルティプラはイタリアの「奇跡の経済」に大きく貢献したクルマと言えるだろう。
大人数が乗れる、荷物がたくさん載せられる、フラットにすればベッドにも・・・と、ムルティプラのメリットを訴求している。
さすがにイタリア車。センスの塊だ。
日本で普通の人が車を購入できるようになったのは60年代の半ば以降である。その10年も前にイタリアでは、乗用の小型車を生活のスタイルや場面に合わせてさまざまに使おうという発想があった。日本で今流行している軽のトールワゴンと同じ発想だ。この時代、やはりイタリアは、日本より一歩先を行っていた自動車先進国だったのである。
フィアット600ムルティプラは、今でもファンが多い。その可愛さ、コンパクトさが受けている。多目的に使うという理由で改良した小型車、それも60年も前の車が、デザインセンスが優れた車として今でも愛されているのである。

写真家パオロ・モンティがミラノで撮影した1枚である。車と運転する女性の様子が、街の雰囲気とぴったりだ。
【Paolo Monti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】
古い車のデザインが、単なる懐かしさだけでなく、センスのよさで喜ばれている。しかも、センスよくしようとしたのではなく、多目的に使おうと改良した車が、結局ナイスセンスになっているのだ。こうなってくるとさすがに「イタリア車なんだなぁ」という言葉しか出てこない。