モスクヴィッチ 400

ある車にそっくりなモスクヴィッチ。

モスクヴィッチ 400は、AZLKが戦後に最初に製造した車である。だが、このモスクヴィッチ 400、ある車に似ている、と言うよりもその車そのものである。その車とは、ドイツの老舗自動車メーカーオペルのカデットである。

カデットは、オペルが1936年にフォルクスワーゲンに対抗できる車として開発した意欲的な車だ。戦後の60年代〜70年代にはモデルチェンジを続けて、フォルクスワーゲンやドイツフォードの車と競合したドイツの大衆車でもある。

初代のオペルカデット
初代オペル カデット
ドイツのアーウィン・ハイマー博物館所蔵の一台。これはどう見てもモスクヴィッチ 400である。
Alf van Beemcropped and rotated to focus on the car by Mr.choppers, Public domain, via Wikimedia Commons】

そのオペル カデットの初代とモスクヴィッチ400はうり二つ。これは何を意味しているのか。戦争、つまり第二次世界大戦が関係している。敗戦国であったドイツが戦勝国のソ連に戦争賠償として差し出したのがこのカデットだったのである。

戦争賠償とは、敗戦国が戦争による損害の賠償として戦勝国に支払う金品や資産のことで、敗戦国ドイツは、ドイツのリュッセルスハイムにあったオペルの工場の設備をソ連に賠償として差し出したのである。その工場では当時、1939年型の初代カデットを製造していた。

つまり、AZLKは、オペルが開発した製造設備を使ってカデットを製造し、自社ブランドであるモスクヴィッチで販売したということになる。オペル側としては無念だろうが、戦争に負けたのだから文句は言えないのである。

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戦勝国のソ連側にも事情があった。