背の高いマイナー、一体何に使われた?
さて、このページで取り上げている背の高いモーリス マイナーだが、一体どんな用途で使われたのだろうか。荷室の側面を見るとJOHN COLLIERと書かれている。これは、1907年創立のイギリスの紳士服ブランドの名である。つまり、このマイナーは、紳士服店の車であることがわかる。
しかも車のデザインは、1956年から生産されている第3世代のモーリスマイナーの形であるので、この車は、紳士服店JOHN COLLIERの1950年代の配送車ということになる。1950年代、JOHN COLLIERはイギリスで400店以上の店舗を展開していた。きっとこの背の高いモーリス マイナーは、国中で見られたことだろう。

撮影されたのは1963年。当時行われたスクーターの耐久レースイベントのパレードの様子を撮影した写真である。見物人の後ろにJOHN COLLIERが写っている。スクーターを荷台に載せてパレードに参加しているのは、モーリスマイナーのピックアップだが、この車はパレード参加車であり、紳士服店のものではないようだ。当時はマイナーは本当に一般的な車だったのだ。
【H. Brain (ne Holland; owner of photograph), CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】
このように、イギリスらしいイギリス車モーリス マイナーは、紳士服といういかにもイギリス的な商売の車にも使われていたのである。では、なぜ背がこんなに高いのか。
背の高い車にはGOWN VANという別名もある。そう、ガウンである。ガウンは、家でくつろぐ時の部屋着を思い出すが、英語のガウンには、式典で着る式服や裁判官、大学教授など公的な職業の人が着る職服の意味もある。つまりこの車は、式服や職服など丈の長いフォーマルな服の配送に使われたのである。丈の長い服をそのまま収納するため背が高いのだ。
長い式服や職服を着ると言えば、やはり上流階級である。イギリスなので子爵とか男爵とか爵位を持つ人も多いだろう。そんな人たちの服を庶民派の車であるモーリス マイナーで配送したのである。もちろん、こうした服を着る人たちは、モーリス マイナーのような庶民の車には乗らないだろうが・・・。
庶民の車モーリス マイナーを、上流階級向けの商売に使うというこのあたりの感覚がまた、イギリス人が大好きなブラックジョークのひとつにも思えてくる。
1968年製のモーリス マイナーバンを紹介する動画である。牧場あり、林ありといった風景の中を走るマイナーの姿を、さまざまな角度から捉えている。なかなか心憎い演出だ。左ハンドルなので場所はイギリスではなさそうだが、どちらにしてもヨーロッパの田舎の景色に似合う車である。
