フィアット 508C

E.I.A.R.のラジオ普及に一役買った508C。

ラジオ受信機の庶民への普及にあたり、イタリア放送協会は、低価格のラジオを企業に作らせ売り出した。イタリア初の量産型ラジオの誕生である。誕生したのは1937年、しかも名前はラジオバリッラと言う。奇しくもフィアット508Cと生まれた年も名前も同じである。そしてこのラジオバリッラのおかげで、イタリアのラジオ加入者数は急速に伸びていったようだ。

ラジオバリッラを作ってラジオを聞く世帯の数を増やしたイタリア放送協会が、最新型のフィアット508Cを街に走らせてラジオ放送の宣伝を行ったというのは考えられることではある。流線型スタイルのかっこいい車にE.I.A.R.と書き、おまけに旗も2本掲げて走っていくのだから大いに宣伝になったことだろう。しかも車の愛称は、ラジオと同じバリッラなのである。

E.I.A.R.の低価格ラジオ
ラジオバリッラ
E.I.A.R.肝いりの低価格ラジオ。量産型ではあるが、結構ナイスデザインのスグレからモノである。今でも部屋に置けばいいインテリアになりそうだ。このあたりはさすがにイタリアでもある。
Sailko, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】
ラリー・ポーランドの508C
ラリーに出場した508C
1939年6月のラリー・ポーランドに508Cが出場。ラリー・ポーランドは、モンテカルロラリーに次ぐ古い歴史を持つラリーである。508Cは、そんな大イベントにも出場するフィアット自慢の新型車だった。しかしこの3ヶ月後、ドイツがポーランドに侵攻し第二次世界大戦が始まる。
Narodowe Archiwum Cyfrowe 3/1/0/5/1653/1, Public domain, via Wikimedia Commons】

なお、バリッラという名前であるが、「小さな英雄」ということで、ファシスト党が政権を取っていたこの時代にはよく使われた名前でもある。有名なものにファシスト青年組織オペラ・ナツィオナーレ・バリッラがある。子どもたちをファシズム体制に組み込もうという目的で生まれた組織であり、ナチス・ドイツのヒトラーユーゲントと似たようなものだ。

そんなイメージもあって、このフィアット508Cは、ファシズム政権下である戦前から戦中にかけてはヒットしたと考えられる。しかし、この車、1937年から戦後の1953年まで製造、販売が続けられていたのだからイメージばかりでもないようだ。やはり運転性能がよく、購入もしやすいいい車だったのである。

しかも、バリッラという愛称のおかげで皆から愛されてもいた。どちらにしても「小さな英雄」である。

フィアット508C動画
内装、外観、走る姿、エンジン等々、508Cのすべてを見せまくる動画である。両開きのドアを開くと、なんとこの車ピラーレスであることもわかる。コンパクトで開放感もあり、運転もしやすそうだ。やはりこの車、小さな英雄である。