高級車製造で名を馳せたイスパノスイザ。
イスパノスイザは、スペインの自動車メーカーである。1904年に創業し乗用車や商用車の製造を行っていたが、後に高級車の製造販売を始める。高級車に関しては、スペインよりフランスの方が需要が大きかったため、1911年にはフランスに工場を建設して販売を開始。高級車メーカーとして知られる存在となってゆく。
その一方でイスパノスイザは、1910年代から、需要が増えた航空機エンジン製造の分野にも参入。軽量で強力なエンジンを開発し、成功している。こうした航空機エンジンの製造で培った技術は、自動車製造に活かされていることは言うまでもない。
デュボネ クセニアを製造した1930年代後半、イスパノスイザは、スペインやフランスをはじめヨーロッパの各国で知られた大手自動車メーカーでもあった。

1911年に出されたフランス語の広告である。1910年にブローニュで行われたレースで勝った車をベースにした新型車を宣伝している。
【Hispano-Suiza, Public domain, via Wikimedia Commons】
コウノトリの形のキャップである。これは、イスパノスイザのエンジンを搭載した飛行機で戦ったフランスの名パイロットジョルジュ・ギンヌメールへのオマージュとされている。
【Alf van Beem, see page for license, via Wikimedia Commons】
アンドレ・デュボネとは何者か。
では、イスパノスイザにこの流線型の車を依頼したアンドレ・デュボネとはどんな人物なのだろうか。アンドレ・デュボネは、航空機のパイロットでありレーシングドライバーとしても名を馳せた人物だ。もちろんイスパノ・スイザのドライバーとしても活躍している。また、彼は発明家であり開発者でもあった。自動車のサスペンションの開発をはじめ空気力学を応用した流線型の自動車の研究、開発を行っている。

ベレー帽を被ったオジサン、この人がアンドレ・デュボネである。1929年のブガッティグランプリというブガッティ主催の自動車レースで撮られた一コマである。
【Agence Rol, Public domain, via Wikimedia Commons】
デュボネ クセニアは、そのアンドレ・デュボネが自らの研究、開発の成果を収めた車である。ベースとなっているのはイスパノ スイザの代表的な大型高級車H6だ。そこにアンドレ・デュボネ開発のサスペンションを搭載。さらに外観は見ての通りで、デュボネが研究していた空力設計の塊とも言えるスタイルになっている。
その流れるようなスタイルを実際に作ったのは、高級車のボディデザインで名高いコーチビルダーのジャック・ソーチクだ。ジャック・ソーチクは、もともと高級家具の職人であり、キャデラックやブガッティなど派手で贅沢な車のデザインを得意としている。

写真は、1929年型のイスパノスイザH6B。デュボネ クセニアのベースとなった大型の高級車である。
【Alexander Migl, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】
アンドレ・デュボネの開発したコイルスプリングサスペンション。デュボネ クセニアには4輪ともこのサスペンションが使われている。
【S.Wetzel, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】
デュボネ クセニアは、このようにアンドレ・デュポネのこだわりが注ぎ込まれた車でもある。アンドレ・デュボネは、大型高級車に自らが開発したシステムを搭載し、最高の職人の手によるデザインを施した世界で一つの車をイスパノ・スイザに依頼したのである。