最後に登場したブッチャリTAV12。
さて、ブッチャリTAV12であるが、この車、TAVシリーズの最後を飾る車である。それどころかブッチャリというメーカーの最後の車でもあった。そして、ブッチャリが製造した前輪駆動車の中では、モーターショー用ではなく、実際に顧客に販売された唯一の車でもあった。
最後のTAVは、顧客の要望を受け、V型12気筒エンジンを積み、全長が6メートルを超える4ドアセダンという車となる。正確に何台生産されたかは定かではないが、この車はフランス語で黄金の矢を意味する「ラ・フレッシュ・ドール」とも呼ばれ、ファンの間では伝説的存在となる。
ブッチャリは、会社の存続をかけてTAVのような注文生産の高級車製造を始めたわけだが、時代が悪かったことは否めない。
開発を始めた1920年代後半は、社会全体もまだ好景気に支えられていた。ところが1929年10月のウォール街大暴落をきっかけに世の中は大恐慌の時代に突入する。もう、豪華で高性能な車が売れる時代ではなくなっていたのだ。そしてブッチャリもこの車を最後に自動車生産から撤退してしまうのである。

隣りに立っている人物と比べると、車の大きさがよくわかる。写真は宝飾ブランドのカルティエが主催するクラシックカーイベント「カルティエ・コンクールデレガンス」での一コマ。撮られたのは2022年だ。製造されて90年のブッチャリTAV12、やはりこの車は迫力がある。
【Calreyn88, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】
現代もその優雅な姿は色褪せていない。
ブッチャリTAV12というこの高級車、現代では各地で行われるクラシックカーイベントにたびたび登場し、人々にその優雅な姿を披露している。
そして、そんなイベントに登場するクラシックカーは大抵、裕福なコレクターや上流階級の人間が所有する車でもある。
製造されて90年以上が経つブッチャリTAV12だが、今でも富裕層や上流階級の人々に愛され、大切にされているのだ。それを考えると、この車を作ったブッチャリ兄弟にとっては、まさに面目躍如と言えるだろう。もちろん自分たちの車が90年後のイベントで展示され、大いに評価されていることは知る由もないが・・・。
ドイツの車紹介チャンネルAuto Bildの紹介動画である。前項の写真と同じ2022年のコンクールデレガンスで撮影されたもののようだ。解説者が興奮気味にこの車の特異さ、素晴らしさを語っている。なお、ここでは、この車はブッチャリTAV8-32 V12と紹介されている。
