ブッチャリ TAV12

ブッチャリって何?

ブッチャリとは、1922年創業のフランスの自動車メーカーで、ポール アルベール・ブッチャリとアンジェロ アルベール・ブッチャリという兄弟が始めた会社だ。特にポールは、子供の頃から車と飛行機が好きで、21歳で自家用車を持っていたと言う。また、飛行機のパイロットとして曲技飛行で稼いでいたこともあったようだ。

そんな乗り物が大好きなポールが、音楽家であった兄弟のアンジェロを誘って立ち上げた自動車メーカーがブッチャリなのである。1922年創業で、その10年後に大型の高級車ブッチャリ TAV12を世に出したわけであり、このTAV12、何か深いこだわりがありそうな車ではある。

しかし、TAV12について語る前に、まずは、ブッチャリという自動車メーカーについてもう少し見ていこう。

ブッチャリが最初に製造したのはBucという名前の小型のスポーツカーであった。資料がなく詳しいところは不明であるが、スポーツカーとは言うものの実際にはサイクルカーのようなものだったらしい。

サイクルカーとは1910年代から20年代の始めにかけて流行した小型自動車である。一人乗りか二人乗りで、オートバイを4輪あるいは3輪にしたような安価な乗り物だった。

ブッチャリは、このサイクルカーの生産から出発し、次第に普通の自動車の開発、製造、販売を行うようになり、ある程度の成功を収めたようである。自社開発の車でいくつかのレースにも参加し、好成績を収めてもいる。

1913年のサイクルカーの広告
サイクルカーの広告
アメリカのサイクルカーである。エンジンの回転をチェーンで後輪に伝えているのがわかるが、オートバイに近いシンプルな構造の車であった。上の広告は1913年であるので、ブッチャリのサイクルカーはもう少し普通の車に近いものだったのかもしれない。
Greyhound Cyclecar Company, Public domain, via Wikimedia Commons】
サイクルカーグランプリの写真
サイクルカーグランプリ
1913年にフランスのアミアンで開催されたサイクルカーグランプリの様子。前を走るのはイギリスの3輪自動車モーガンのようである。当時はこんなレースが各地で行われていた。
Agence Rol, Public domain, via Wikimedia Commons】

しかし、彼らの作る車は収益性が低く、1926年頃には事業の継続が難しくなってきていた。そこでブッチャリは、会社の目指す方向を変更する。革新的な技術、デザインを売りにした注文生産の高級車の製造、販売を始めるのである。富裕層や上流階級をターゲットに、ブッチャリ独自の車を売り込もうというわけだ。それがブッチャリTAVシリーズである。

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革新的な車だったTAVシリーズ。