メルセデスベンツ 150

なぜこの時期にロードスターを出したのか。

この車はスポーツロードスターとも呼ばれたが、そもそもロードスターとは何か?それは、屋根のないオープンカーのことである。しかも、最初からオープンとして設計されている車のことだ。

ゆえに、2シーターのロードスターとは実用車ではない、いわば遊び車である。1930年代には、メーカー各社からロードスターが出されていた。事実ベンツでも、1934年に強力なエンジンと最新装備を搭載したメルセデスベンツ500Kを登場させ、好評を博していた。

メルセデスベンツ500K スペシャルロードスター
オランダのラウマン自動車博物館に展示されている500K。この車はFR(フロントエンジン・リアドライブ)車であるため、メルセデスベンツ150に比べ運転席は後ろの方にある。
Alf van Beem, Public domain, via Wikimedia Commons】

では、ベンツはRR車の開発にあたり、セダンタイプのメルセデスベンツ130に続き、高性能な遊び車であるメルセデスベンツ150をなぜ出してきたのだろうか。そこにはベンツの、いやドイツとしての自負があったのではないだろうか。

この車を見ていると、第二次世界大戦時のドイツの航空機を思い出す。メッサーシュミットやハインケルなど、高い技術に裏打ちされたエンジンを持ち、質実剛健な中にも粋を感じさせるデザインの名機が多い。

ドイツは第一次世界大戦で敗戦国となり、急激なインフレに苦しんだ。この車が登場した1930年代のなかばと言えば、敗戦国であるドイツが国力を蓄え、再び世界と対等に渡り合おうとしていた時期でもある。

ドイツはこの時期、最新の技術や工業力を結集させて軍用の車両や航空機を開発、製造した。そこには、ドイツの回復した自信も見える。

クラシックカーフェスでのメルセデスベンツ150
この動画で動く姿を確認できる。キーンという音とともに走り去る姿がいい。

メルセデスベンツ150を生み出した技術やデザインにもその流れの一端が現れているようだ。ドイツは、1935年にヴェルサイユ条約の軍事制限条約を破棄し再軍備を始めるが、メルセデスベンツも軍用の車両やエンジンの生産を行うようになる。

150は、まさにその頃に作られた車でもある。もちろんこの車は軍用車両でないが、こんな時代の空気の影響を受けて開発、製造されていたのである。

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庶民の自動車所有を進めようとしたドイツ。