ルノー NN

普通の車とは違う?ルノーNN。

自動車が生まれたのは19世紀の末であるが、1900年代の初めには現代の自動車のものと基本的に変わらないラジエターの機構が完成し、車のフロントに大きなラジエターグリルが付くようになった。エンジンを冷やすための効率的で経済的なやり方は、ルノーNNが生まれた1920年代にはすでに確立していたと言えるだろう。

多くの車で普通に採用されていたラジエター方式をなぜルノーは採用しなかったのか。大衆車であるからには、よく使われている機構を使って経費を抑えて作った方が良いのだが・・・。やはりそこにはルノーならではのこだわりがあるのである。

そのこだわりとは何か。それを考慮する前にフランスの自動車メーカールノーの歴史について簡単に触れておきたい。

創業者の、エンジニアとしてのこだわりが。

ルノーは、エンジニアであったルイ・ルノーとその兄弟によって1899年に設立された自動車メーカーである。ルノーは、まず最初に、ヴォワチュレットという小型自動車をヒットさせる。やがて、車の大量生産を始め、1904年にはフランス国内に販売店網を整備。イギリスやアメリカなどへの輸出を開始し、1908年には早くもフランス国内最大の自動車メーカーとなる。創業して10年も経たないうちに一気に大メーカーへと成長するのである

ルイ・ルノー肖像写真
ルイ・ルノー
1924年の写真。この頃は従業員2万人を抱えるルノーの代表であり、自動車だけでなくさまざまな事業にも手を広げていた。
Très Sport, Public domain, via Wikimedia Commons】
古いルノーのポスター
ルノーのポスター
1920年代のポスターである。トーピードスタイルのルノー車がスピードを上げて走る姿が描かれている。部屋のインテリアに使いたくなるような絵でもある。
The Museum of Eastern Bohemia in Hradec Králové, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】

こうした成長を支えたのは、創業者ルイ・ルノーのエンジニアとしての才能や技術力であった。車の前に乗せたエンジンの回転を後輪に伝える機構、つまり現在のフロントエンジン・リアドライブ方式の原型を作ったのはルイ・ルノーであり、ドラムブレーキやショックアブソーバー、ターボチャージャーなど現代の車に普通に採用されている数多くの機構も開発している。

こうしたエンジニア上がりのルイ・ルノーは、エンジンの冷却方式として当時一般的に使われていたラジエター方式に疑問を抱いていた。ラジエターは、ルノーが採用していた方式、エンジンの後ろに付けるという方式の方が、シンプルで故障が少ないと自信を持っていたのである。実際には客室内に熱がこもったり、冷却水を頻繁に追加しなければならないなど、デメリットもあったのだが・・・。

こうした理由で、ルノーNNは、フロント部分が当時の車の中ではとても個性的なデザインとなったのである。この車は、1924年に登場し、NN1、NN2とマイナーチェンジを行うが、生産が終了する1930年まで車のデザインは基本的に変わらなかった。

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フロントで、ルノー車の個性を強調。