メルセデス シンプレックス

「明後日の車を」という依頼から。

メルセデス35HPとは、メルセデスシンプレックスが生まれた前年の1901年にDMG社が製作した35馬力の車である。それは、DMG社の販売代理店であった実業家エミール・イェリネックから製造を依頼された車であった。

その時のイェリネックの依頼は、「今日や明日の車ではなく、明後日の車を」というものだった。

明後日の車ということだから、ちょっとデザインがいいとか馬力があるといった程度のものではない、新しい何かが必要だった。そんなイェリネックの依頼に応え、DMG社は、メルセデス35HPを作り上げる。

メルセデス35HP
メルセデス 35HP
エミール・イェリネックから依頼されて製造した35HP。新たな技術が詰まった車であった。
MartinHansV, Public domain, via Wikimedia Commons】

軽量ボディに頑丈なシャーシを備えたその車には、それまでの車には無かった技術が生かされていた。

新たな技術の一つは、車の重心の低さである。この車以前の19世紀末の車と言えば、エンジンの上に運転席があるため重心が高い。重心が高いということは、倒れやすいということでもある。少しスピードを出してカーブを曲がろうとすると危ないことになる。

エンジンのパワーがアップしてくるとこの点が問題になる。倒れやすいため、スピードを上げることができないのである。そこでDMG社は、エンジンを運転席の前に配置し、全体の重心を低くした。こうして、スピードを上げても倒れにくくしたのだ。

メルセデス35HPレース仕様
メルセデス 35HPレース仕様
当時の宣伝写真だろうか。下にメルセデスレースカーと記されている。座席は2つでヘッドランプもない。
Mercedes-Benz-Werkphoto, Public domain, via Wikimedia Commons】

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オーバーヒートを防ぐ仕組みを作った。