この車は、注文自動車だった。
実は、この時期のフィアットの高級車は、フレームの販売が基本であった。フィアットはエンジンやトランスミッション、足回りなど車のフレームを販売し、顧客はカロッツェリアに依頼して、そのフレームにキャビンやシートを含んだボディを取り付けてもらって車を完成させたのである。
カロッツェリアとは、英語で言えばコーチビルダーであり、自動車のボディを製造し、取り付ける業者のことだ。
この時代は馬車のシートや客室を製作していたカロッツェリアが自動車向けのボディを請け負っていたことだろう。要するにこの車は、注文自動車であり、顧客が自分の好みの車に仕上げる高級車だったのである。

コーチビルダーの様子
18世紀の版画に描かれたパリのコーチビルダー(カロッツェリア)である。馬車の座席やキャビンを職人が作っているのがわかる。
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18世紀の版画に描かれたパリのコーチビルダー(カロッツェリア)である。馬車の座席やキャビンを職人が作っているのがわかる。
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カロッツェリアの広告
1906年のミラノ万博におけるカロッツェリア チェザーレ・サーラの広告である。自動車も馬車も受注する最新の車体工場と宣伝している。
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1906年のミラノ万博におけるカロッツェリア チェザーレ・サーラの広告である。自動車も馬車も受注する最新の車体工場と宣伝している。
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この車の不思議な形も顧客の注文により出来上がったのであり、もともとこの形で売られていたわけではないようだ。資料によるとドッピオフェートン24CVは、フィアット24HPのフレームをもとにフィレンツェのカロッツェリアであるヴェネチアーニ社で作られた車とのことだ。