フィアット ドッピオフェートン24CV

ドッピオフェートンという名前は?

ドッピオとは英語でダブルのこと、フェートンとは馬車の形状の名称であり、2列のシートを持つものをダブルフェートンと言ったようだ。

この車も、シートは運転席を含む前席と後席とがあり2列である。つまりドッピオフェートン24CVとは、“2列シートの24馬力”という意味であり、馬車の分類名を名前に持っていることになる。確かに自動車は、当時の人々にとっては馬のない馬車という認識であった。したがって、エンジンのついたシャーシに馬車のようなキャビンや座席が付けられたのが自動車であった。

しかし、この車は奇妙なスタイルである。運転席には背の高いキャビンが付き、後ろの席は幌である。しかもキャビンの屋根の曲線デザインがまた面白い。これも時代なのだろうが、愛らしささえ感じさせる。

ドッピオフェートンのスタイル
ドッピオフェートンのスタイル
運転席はしっかりしたキャビンで後席は幌。不思議なスタイルだ。屋根の形も面白い。
後ろから見たドッピオフェートン
後ろから見たところ
後席に乗ると、目の前が大きな箱型の運転席だ。窓を通して前は見えるが、見晴らしはあまり良くない。

この車の名前に関しては、独特なキャビンの形からダブルフェートンと名付けられたという説もある。確かに、キャビンの白い屋根の形が幌を広げたようで、後席の幌を広げると、2つの幌を広げたように見える。それでダブルフェートンといったのだろうか。いずれにしても、個性的なデザインである。

ランドーレットの高級車。

フィアットの24馬力は、ランドーレットスタイルの車として作られた高級車でもあった。ランドーレットとは、後席に屋根がない車のボディスタイルだ。政府の要人や著名人などがパレードで乗る車としてよく使われるタイプである。

当時のフィアットの広告を見ると、正装した運転手が要人を乗せている絵が描かれている。やはりランドーレットを意識しているのであろう。

フィアット24-32HPの広告はがき
フィアット24−32HPの広告はがき
1905年にパリにあるフィアットの代理店が出した広告はがきである。後席に乗せている要人は左がイタリア国王のヴィットーリオ・エマヌエーレ3世で、右がフランス大統領のエミール・ルーベである。イタリアとフランスの要人を乗せた絵になっている。
Alden Jewell, Public domain, via Wikimedia Commons】

ドッピオフェートン24CVも、確かに運転席はしっかりしたキャビンであるが、後席には屋根がなく幌である。まさしく形としてはランドーレットである。後席に著名人や要人を乗せるための専用車として作られたのだろうか。

でも、それにしては、後席に乗る人はあまり目立たない。運転手の乗るキャビンが背が高く立派すぎるのである。

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この車は、注文自動車だった。