ブガッティ タイプ41

タイプ41が生まれた理由が面白い。

ブガッティ タイプ41の誕生に関しては、あるイギリス人女性がブガッティの車をロールスロイスと比べたことに対し、創業者のエットーレが腹を立てたからという話がある。

詳細はよくわからないが、ロールスロイスと言えばイギリスの誇る高級車。しかも、イギリスの貴族や富裕層が愛用する信頼のブランドだ。イギリス人女性に「本物がわかる人の乗る車は、やっぱりロールスよね。」とでも言われたのだろうか。

いまだにロールスロイスと言えば高級車の代名詞であり、その強いブランドイメージは崩せないが、エットーレはそんなイメージに対抗しようと思ったのかもしれない。単なるお金持ち向けの高級車ではなく、ヨーロッパの王族向けの最上級の美しい自動車、それがブガッティ タイプ41ロワイヤルだと訴えたかったのだろう。

つまり、これは成金が喜ぶ高級車ではなく、昔から尊い地位にある人が愛用する超高級車なのだと。では、この車タイプ41ロワイヤルは、果たして売れたのだろうか。

タイプ41ロードスターとジャン・ブガッティ
ブガッティ タイプ41ロードスター
オープンタイプのロードスターである。車の脇に立っているのは、エットーレ・ブガッティの長男ジャン・ブガッティ。車の大きさがよくわかる。
Arnaud 25, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons】

タイプ41ロワイヤルは、1927年から1933年までに7台製造される。ところが、ヨーロッパの王族に愛用されることはなかった。時代が悪かったのである。

1929年、アメリカの株価の大暴落に端を発した経済恐慌は瞬く間に世界を席巻した。いわゆる世界恐慌である。こうした時代にあっては、王族と言えども新しい高級車を買う余裕などなかったのである。

製作された車を購入したのは、結局、実業家や医師などの富裕層の人々であり、数台は売られることもなくブガッティが所有した。このページの最初に掲げたタイプ41ロワイヤルもブガッティが自社で保有した一台である。

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激動の時代に翻弄された車だった。