ビアンキ 20-30CV

ビアンキ20-30CVは、馬車の形を残す車。

さて、このページの最初に掲げたビアンキ20-30CVを少し詳しく見てみよう。当時の自動車は多くがオープンスタイルであり、簡単な囲いや幌が付いている程度のものが多かった。しかし、この車は興味深い形だ。運転席はオープンで幌が付いているが、後ろの席は屋根と壁で囲われドアが付いたキャビンになっている。しかも、凝った作りのキャビンである。

ビアンキ20-30の側面
ビアンキ20−30CVサイドビュー
運転席は幌が付き、その後ろにキャビンがある。幌の後ろには、キャビンのドアを照らすランプが付いている。馬車に近い形である。
ビアンキ20−30CV斜め画像
運転席側から見たビアンキ
イタリアの車だが運転席は日本車と同じ右側だ。これは、ギアチェンジを右手で行えるようにしたからである。

この車の形は、自動車が馬車の代わりとして発達してきたというのがよくわかる形でもある。実際、自動車が街を走り始めた頃、自動車のことは「馬のいらない新しい馬車」と呼ばれていた。1880年代から90年代の自動車はまさしく馬のない馬車であり、それと比べればビアンキ20−30CVは現代の自動車に近いが、それでも馬車の名残が強く感じられる。

さて、馬車にもいろいろな形があり、むき出しの座席が並んでいるだけのものや、幌で覆われているもの、ドア付きのキャビンが取り付けられたものなどがある。

キャビンの付いた馬車
キャビン付きの4輪馬車
箱型のキャビンが付いた馬車である。キャビンのドアの上部にはランプが付いている。ビアンキ20-30CVのキャビンを彷彿とさせる。
Kozuch, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

キャビンが取り付けられている馬車は、やはりお金持ちや地位の高い人のものだろう。高級素材で作られ飾りが付いたキャビンにはご主人が乗り、御者が馬を操るのである。

ビアンキ20-30CVは、このキャビン付きの馬車のスタイルが感じられる車である。運転席と乗客の乗る部分がしっかりと分けられていることからすると、自動車の分類で言えばリムジンになるだろうか。リムジンなら普通は大型の車だが、この車は可愛く、しかもカラフルだ。

馬車と御者
箱型の馬車と御者
1840年頃の馬車である。乗客が乗るキャビンの前に御者が座り2頭の馬を操っている。この馬がエンジンに変われば、まさに自動車だ。
PRA, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons】

詳細は不明だが、このビアンキ20-30CVを主に所有したのは、御者付きの馬車に乗るようなお金持ちだったのではないだろうか。キャビンには家の主人が乗り、運転するのは家の使用人である。

次ページ
20世紀初頭、車はお金持ちの贅沢品だった。